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相手が七汐なら、恋愛不器用な祥子に対し、回りくどい駆け引きはしないだろう。
恐らく本当に、“車を洗いたい”だけだと思うが。
「考え事を、したいんじゃないか？その“友達”の彼氏は」
少々面倒な 彼女の“設定”に付き合いながらも
一矢は、空になったカクテルグラスの隣にそっと水を置いた。
彼女は昔から、酒に弱いから。
「考え事？何か悩み事があるって事？それと車とどう関係があるん⁈」
ヒントを得られると思ったのか、祥子は勢いよく頭を上げて矢継ぎ早に質問を重ねる。
頭痛か眩暈を感じたらしく、頭を抑えながら、テーブルに置かれた水を半分喉に流し込んだ。
「ドーパミンやホルモン、脳神経系の話は専門外だが、手や足を動かす事で集中力が高くなり思考が整理しやすくなるらしい。
オレも考え事をする時は、料理作ったり車を洗ったりする」
「確かに―――あるわね」
「単に、車や機械モノに無頓着な女性は多いから、少し詳しい奴なら彼女の役に立ちたいって下心があるのかもしれないけどな。
どちらにしろ、男なんて単純な生き物なんだ。そんなに深い意味はないだろうから、君がそんなに悩む事じゃない。“友達の話”なんだろう？」
うむふむと頷いていた祥子は、慌てて「そうよ、友達の話なんだから」と念を押し、残りの水を飲み干した。
二杯目のカクテルを速いピッチで嗜むと、腰を上げる祥子。
今日は酔うまで飲むのかと思いきや、そうではなかったようだ。
支払いを行おうとクレジットカードを取り出す彼女に、一矢は「お節介かもしれないけれど―――」と声を掛ける。
「オレが思うに、その“友達”の彼氏は前者であって、一人で黙々と作業をしながら考え事をしたいのだと思う。
洗車が駄目ならジムのランニングマシンで走るだろうし、それも駄目ならバイクで一っ走り行くだろう。
助けが必要な時は声を掛けてくるだろうから、余計な気を回さず一人にさせておけ―――……と、伝えておくといい」
「……分ったわ、有難う。伝えておくわ、友達に」
ピンと伸びた彼女の背中を、一矢は微笑で見送る。
手はかかるが、最近の祥子は以前よりずっと輝いて見える。
「恋をすると、女性は綺麗になれるんだっけ？」
―――全く。魅せつけてくれるねぇ
この前は、少し悪戯をしてしまったから―――
これはその、詫びだよ 七汐。
一矢の磨いたグラスには、彼の優し気な笑みが
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