Glass 51 :男心 ページ42
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「ねぇ横峰君、友達の話なんだけど―――」
そう言って、頬杖を突きながらハワイアンブルーのカクテルを傾ける祥子を見るのは、何年ぶりだろうか。
彼女がI-nfinity∞に来る前は時折、このカウンターに一人腰掛けてアフターファイブのやけ酒に暮れていたのを覚えている。INFINITY∞の住人となってからも、彼女は時折客として飲みに来ていたが、最近はめっきり減っていたというのに。
何か心境の変化があったのだろうか―――。
祥子が“友達の話”と切り出す話は、大抵自分の事だ。
意図しているのか、それともまだ気づかれている事に気付いていないのかは分からないが、
客の少なくなったカウンターの中でグラスを拭きながら、一矢はうんうんと相槌を打った。
「男の子の言う“車を洗いたい”って、どういう意味かしら?」
オレンジ色の間接照明が、祥子の横顔を悩まし気に染める。
婀娜なその表情は、冗談を言っている様には見えないが 話がまるっきり見えてこない。
「どういう事、だろうか? とは?」
脈絡がなく理解できなかったため、一矢は表情を崩さず祥子に詳細の説明を求めた。
女性との会話において、その殆どの場合、彼女達は相手に明確な“答え”を求めていない。
疑問符を付けながらもすでに自分の中で答えは決まっており、それを共感して欲しいがために口にする事例が多い。
例えば、『AとBのワンピース、どちらがいいかしら』と尋ねられた場合、質問者の中では既に答えが決まっている。それを親切心で『Aが良いのでは』と意見しても、『Bの方が昨日買ったコートに合いそう』等と突然降って湧いたような情報を絡めて否定されるのだ。
この場合、とにかく話をさせることで、自分の意見をまとめて自分で決めてもらうのが一番良い。
所謂“自己決定支援”と呼ばれるもので、コミュニケーション技術の一つである。
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