⋆ ページ5
・
にんまりと意地悪く挙がる口角が、祥子の退路を断つ。
よもや三十路を過ぎてその意味が分からない―――等という無邪気を装う事は出来ないだろう。
祥子は、仕方なしに小さく頷いた。
じわりと詰め寄る距離に、祥子が二の句を迷っていると
気付けば七汐の身体が、祥子に覆いかぶさるように影を作っていた。
「嫌―――ですか?」
「嫌いじゃない!
―――そんなの、萩原君みたいな綺麗な子に迫られたら、ドキドキするにきまっとるやん?!」
声を上ずらせながらも気のある言葉を口にする割には、
祥子の両手は七汐の口を抑え、身体を押し戻そうと力を込めている。
顔を真っ赤にして慌て“ドキドキする”等と言いながら、NOを態度で示すなんて。
迫る七汐に抵抗―――はしているが、体制的にも力的にも無理やり彼女を抑え込むことは造作もない程度の抵抗にも思える。
大切な人に乱暴な行為を行うつもりは毛頭ないが、彼女の中途半端な可愛い仕草は、七汐を煽っているのかとすら感じてしまう。
((こんなの、どうすればいいのか分からない))
そう思うのは、祥子ばかりではない。
七汐もまるで試されているような緊張を抱いていた。
酒を飲んでいるわけではないし、勿論理性もしっかりある。
彼女が本気で拒否を示せば離れるつもりでいたし、拒否をしてもいいというのが、
この“ご褒美”に対する“ルール”だ。
だが―――
(これ、本気で拒否られてはいないよな……)
続けていいのか―――
退いた方が良いのか―――
どうでもいい人になら、幾らでも大胆になれる。
目の前にいるのが大切な人だから
こんなにも迷い悩んでしまう
貴女には、嫌われたくない―――
大切に想っているから
試すように 確かめるように
重ねた今までの“ご褒美”は、祥子のベクトルを計る為。
どこからはダメ?
どこまでは大丈夫?
どこまでは許してくれる?
確認しないと分からない。
伝えてくれないと 勘違いしてしまう
貴女の優しさを
―――もしかして、貴女も俺の事を 想ってくれているのだと
都合よく解釈してしまうから。
3人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ