＊ Two-faced 4 ＊ (ページ37)

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Glass　50　：違和感ページ37

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バイクのエンジンを切った途端、暗順応が追い付かず一瞬駐輪場が闇に包まれた。
ヘッドライトという強い光源がI-nfinity∞の白壁に反射し、あれだけの明るさを確保していたのか。

スマートフォンディスプレイに表示された時刻は丁度18：00に替わり
七汐の心と連動しているかの様に、
駐輪場からゴミ置き場、駐車場まで伸びる屋外灯が一斉に明かりを燈した。

「日が暮れるの、早くなったな―――」

ぼそり呟いた言葉は、玄関エントランスの静けさに飲み込まれる。
七汐はジャケットのポケットに入れておいたカードキーを、二重目の玄関扉セキュリティ前に翳した。

トストス……と、重いゴムヒールの音が階段を駆け上がる。
暫く、本業が忙しくてジムに通えていなかった。
その運動量を補填する為、職場でもI-nfinity∞でも、極力階段を使うように心がけている。

１階にある救急室(自部署)から、支援に呼ばれた6階の病棟までノンストップで階段を駆け上がる事を考えれば、ユニバーサルデザインが意識された蹴上16㎝の階段を、2～3段飛ばしで3階(自室)まで上がる程度、運動に入らない。

そう言えば―――

I-nfinity∞は40歳以下の若者を居住者としている割に、所々にバリアフリー構造が見られる。
当初は、5階に住む三笠オーナーの妻、真矢が車椅子の為かと軽く考えていたが、
エレベーターが設置されていると言うのに5階までの階段の蹴上が公共施設基準(18㎝以下)よりも低く設定されている事や、居住者のプライベート空間においても廊下の有効幅が90㎝とかなり広い事は気になっていた。

違和感を覚えるのは、七汐が福祉・医療の知識に精通しているからだけではない。
数値だけでは気づき難いが、一般的な廊下の有効幅は78㎝であり、
これはグランドピアノや洗濯機、冷蔵庫などの大物家電が十分搬入できる広さだ。
90㎝というのは、七汐(医療者)風に言えば廊下に手すりを付けて有効幅が削られても尚、車椅子が自走できる幅である。

健全な七汐が廊下に向かい立った時の違和感は、途轍もない。
共有スペースなら良いとしても、やはり各居住者の部屋がこの造りであるのは些か度を越しているように感じてしまう。

この共同住宅に引っ越して半年も経つと言うのに、
今更ながらに覚えた“違和感”を巡らせながら玄関ロックにカードキーを翳した。