検索窓
今日:32 hit、昨日:0 hit、合計:3,410 hit

ページ35




脳内で次の言葉を探りながら、若葉の返事を待っていると
彼女は両手で腕を抱くように掴み、言い難そうに視線を逸らせた。


「私、七汐君の事―――ちょっと良いなって思ってたから、見ていて分かったの」


(ミスリード、だったか……)



祥子との約束がある為、対外的には特別感を出していなかったはずだが、よもや“女の勘”的なモノに気付かれるとは。
次の言葉を詰まらせる七汐に、若葉は言い訳の様に言葉を続けた。


「若葉の気持ち、知ってたでしょ?」

「……まぁ。好意には―――」


少し前までは、やけに若葉とのBarタイムシフトが重なると感じていたし、
垣間見せる彼女のあからさまな言動は、よほど鈍くなければ大抵の男はその好意に気付くだろう。


これ以上、気づかぬ振りをするのも若葉に失礼であり
ストレートに伝えてくれた彼女に“嘘”を返すのも、誠意に欠けて心苦しい。



「―――好きだよ、祥子さんの事」


七汐の言葉で
両腕を抱えるように握る若葉の手に、ぐっと力が入ったのが分かった。
一瞬歪んだ唇が、彼女がストレス状態にある事を明白とする。


澪と別れた後、“次の恋を”と応援してくれた彼女の気持ちを無下にはしたくない。
若葉の伝えてくれた好意に対しても、どのように返すのが良いのか。

深夜までの勤務に疲れた身体とは反対に、ここ暫くで一番頭を使っているのではないかと思う位、
七汐は返答に悩んでいた。

そもそも若葉は、七汐の気持ちに気付いていながら何故今、それを確認したのだろうか。



俯いたまま、彼女は言葉を発しない。
さらさらとした少し長めの前髪が目元に影を作り、若葉の表情を読み難くした。

静かな深夜のスタッフルームで、二人の間に緊張が漂う。


(ダメだ―――)


絡まる思考に耐え切れず、七汐は正直に口を開いた。


「こんな時、スマートに返せるほど
 俺、経験豊富じゃないんだけど……」


しどろもどろになる七汐に、漸く顔を上げた若葉は
一瞬ぷふっと吹き出し笑うと、目尻をそっと拭った。

⋆→←Glass 49 :好意



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (7 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3人がお気に入り
設定タグ:小説 , 恋愛 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年7月23日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。