Glass 43 :針路 ページ4
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「「ごちそうさまでした!」」
両の手を揃えて、食後のお祈りを行う。
食器洗いに向かった七汐を、祥子はリビングのソファーからじっと眺めていた。
この日は七汐が久しぶりの夕食作り。
最近は、仕事の合間に来年度の大学院入試に向けた勉強に力を入れており、祥子が夕飯作りを担当する事が多かったが、今夜は七汐が作りたいと申し出た。
忙しい時間の合間を縫ってでも、夕飯を作るのだから
きっと何か理由があるはず。祥子はそう、確信していた。
だから、
「今日は、何?」
“何”とは勿論、夕飯を作った人のお願いをきくという二人のルール。
“ご褒美”の事だ。
平然な振りをして訊ねてはいるが、祥子の内心は緊張で揺れている。
“今日”は―――
一体何を要求してくるつもりなのか
緊張を隠すために、あえて口元を尖らせて不満を装う祥子。
こういう所は相変わらず 可愛気のない態度だと自分を戒めるが、
三つ子の魂百までと言うように、長年共にした性格というものは、早々に変えられるものではない。
祥子の葛藤を知ってか知らずか、七汐はワザとらしく顎に手を当て、考える素振りを見せた。
そんな白々しい彼に、祥子は “絶対もう考えてあるやろ!”と睥睨を向ける。
心臓の鼓動が、食器洗いを行うキッチンまで聞こえてしまうのではないかと思うくらいに緊張を滲ませる祥子を、たっぷりと焦らした後、
作業を終えた七汐は彼女の待つソファーの隣に腰を落とした。
「今日は―――祥子さん欲しい」
「え?!
―――っと」
祥子は思わず視線を逸らせ、言葉を詰まらせた。
キスにハグ、名前呼び―――
先日は、何もしないからと“お泊り会”を要求された。
七汐の要求する“ご褒美”は、初めから遠慮がない。
確かに、彼の作る“夕飯”は初めから完成度が高く、
普段料理を作る祥子よりも手の込んだものが多い。
本当に、普段料理を作らないのかと疑った事もあったが、
彼のキッチンの“何もなさ”を見れば納得も出来、
その手間暇を思えば”ご褒美“も仕方ないと、自分を守る為の正当な理由をつけて受け入れてきたのだ。
だが、今回は勝手が違う。
いや―――近日の要求内容を思えば、この“
「意味、分かりますよね?」
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