＊ Two-faced 4 ＊ (ページ27)

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「数年前、祥子が結婚を前提に付き合っている男がいると話してくれたが、暫くして別れたと聞いてね。私には平気な様子で笑っていたが、妻の前では泣いていたそうだ―――。
祥子がまた、年下の男と付き合っていると聞いたものだから、私が何も言わずに連れて来いと言ったんだ。
父として、何もしてやれなかったくせに、今更父親面をしてと笑われるかもしれないが、
娘の幸せを一番に想うのが父というもの。
君の事を試すような真似をして、本当に申し訳なかった」

大事な娘を心配する父の気持ちは―――経験した事はないが予想は出来る。
実際、祥子の元婚約者と会った事のある七汐には、彼女の父が“娘の男”に対して警戒するのも仕方がないと納得できた。

同時に、この数年間は仕事を優先したいと祥子に告げた身勝手さに、胸が痛んだ。

七汐の機微を感じ取ったのか、
祥子の父親は強面の顔にふと笑みを浮かべると、ポケットから警察手帳を取り出した。
こんなにも身近に見る旭日章( 桜の代紋)は、重々しくて迫力がある。
彼は手帳の隙間から、四つ折りの古い紙を大事そうに取り出すと、それを七汐に差し出した。

七汐は両手で受け取ると、紙を傷つけないようにと四つ折りをそっと開いてみた。

“だいすきな父さんへ

しょうこたちのまちを守るために、いつもおしごとがんばってくれてありがとう
わるい人をやっつける父さんは、かっこよくてだいすきだよ。

　 1年しのやましょうこ“

「私は―――父としても夫としても褒められた人間ではないが、妻や祥子が居てくれたからここまでやって来た」

小学生の祥子が書いたものだろうか―――
稚拙な字体に、紙は黄ばみ折り目は所々破れてはいるが、彼はこれを手帳に挟み大切に持ち歩いていたのだ。

辛い時も、忍耐がいる時も、危険な任務にあたる時も
家族の存在が、彼を奮い立たせたのであろう。

「祥子は、仕事に追われる男の面倒さを知っている。それでも私を父と慕ってくれる。
そんな娘が私に、“支えてあげたい人がいる”と言ってきた―――。
私はそんな娘を可愛くもあり、誇りに思っている」

見せてもらった手紙をそっと折り畳んで彼に返すと、
男は手紙を愛おしそうに手帳に挟み、ポケットに推し入れた。

彼はそれ以上を言葉として口に出さなかったが、七汐は言葉の重みをひしひしと感じ取っていた。