* ページ18
・
真っすぐな瞳で、素直に思いをぶつけてくれるところは
確かに澪と似ている。
よく考えてみれば、その筈だ。
I-nfinity∞の居住者は、皆何かの目標に向かって頑張っている人で
あの三笠夫妻が選んだ“お気に入り”でもあるのだから。
(―――彼が、悪い人であるはずがない)
「まぁ、正直―――複雑なところもありますが」
―――
「ははっ……。そこはもうノーコメントで」
乾いた笑いを浮かべ、七汐も視線を逃がした。
ちらりと戻した視線の先で、睦はしずしずと珈琲を口にする。
元より、彼が気にするほど澪に蟠りを抱えているわけではないし、
本人ではなく“弟”ならば尚更だ。
「俺も、柏木とは仲良くしたいと思ってるよ」
―――君の所属部署。抗がん剤治療、だっけ?あれの事も、色々教えて欲しいし。
「ホント、ですか?」
「あ―――っと。柏木っていうと澪と紛らわしいから、I-nfinity∞では睦でいい?cafeの常連に実弟いるから、俺の事も七汐でいいし」
「わかりました、七汐先輩。それと、職場でも“睦”でいいですよ。
姉の事も、“澪”って呼んでるんでしょ?」
指摘を受けるが、苦言を返せない。
入職時の同期であり元カノでもあった澪の事は、名前で呼んでいた為、今回睦の苗字を柏木だと聴かされた時、彼女の関係者だと直ぐにリンクできなかったのだから。
「ははっ―――じゃぁ、あっちは“柏木ナース”にするよ」
「絶対文句言われると思いますよ? アイツ、まだ七汐先輩に未練たらたらだから」
「そんな風には見えないな。
新しい男の噂は、色々聞くけどね。聴きたくなくても」
「すみません……」
「いやだから、睦が謝る事じゃないだろ」
I-nfinity∞で、フランクに話が出来る同性の存在は
七汐にとっても有難い。
偶然が、思わぬ出会いをシンクロさせる。
七汐の心には、新たなワクワクが芽生えていた。
・
・
・
3人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ