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「で。君はこれからどうしたい訳?」
―――何かしらの変化を求めて、今日声を掛けたのだろう?
あの暗闇の中、七汐は手元の英文に集中していた。
睦から声をかけられなかったら、彼に気付くことなく家に入っていただろう。
今後も七汐との接触を避けたいのなら、今夜も気づかぬ振りを貫けばよかったはずだ。
だが、睦はそうしなかった。
自ら七汐に声を掛け、柏木澪の弟だと名乗り出た。
相応の覚悟と思いがあっての事だろうと、推察する。
相変わらず、表情に変化はないが
睦の、差し出された珈琲グラスを握る両手が、少しばかり緊張に震えているのを見た。
「澪は……。
人としてもクソみたいな奴で、我儘でビッチで尻軽で、自分勝手で人の事なんてなんも考えていなくて、なんであんな奴が看護師やってんのかって思うくらいにふざけていて。私生活もだらしないし、責任感ないし―――だから。
気まま勝手に萩原先輩を振り回して迷惑かけていたと聞きました」
仮にも先輩であり元カレでもある七汐の前で、平然と実姉をスラングで腐すとは思わなかった。
「いや、別にそこまでじゃ。
彼女は可愛いし、良い所も―――」
段々と息が上がる睦を落ち着けようと、七汐がフォローを入れてみるも、
「世辞なんていいです!!ふざけた姉を持つ弟は、苦労するんです!!」と力強く反論された。
終いには、「あんなのと別れて正解でしたよ」と言われる始末。
暫くの交際を続けていたからには、それなりに澪を好んではいたのだが、彼女の身内にここまで言われると二の句も挟めない。
姉弟の確執だろうか。早々に実家を出て一人暮らしをするくらいだから
まぁ、今までにも色々あったのだろう―――
他人の七汐がとやかく口出す事ではないと自制し、「そうか」と言葉を濁すに留めた。
口を紡ぐ七汐に変わり、睦がフォローの手を差し伸べる。
―――僕は、萩原先輩の事は尊敬しています。貴方が義兄ならいいなって、思ったくらい。
今回あえて声をかけたのも、いつまでも先輩から逃げたくなかったから。
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