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聞けば。
柏木睦は七汐の元彼女の実弟であり、姉の澪から七汐の事は度々聞かされていたという。
姉の恋人だからどんな奴かと気になり、職場で七汐についての噂を耳にしていたが、聴こえてくるのは姉の不貞ばかり。
対して七汐は、友人も多く仕事も出来る人格者であると聞かされた。
そんな時、七汐が姉と別れこのI-nfinity∞に入居してきた。
本業の合間にINFINITY∞夜の部で勤務をしていた睦は、一矢から七汐の話を聞いていたものの自ら話しかける勇気も持てず、一矢に相談して七汐と勤務被りを避けていたという。
流石に、この時期まで隣人と一度も合わないというのは気がかりであった。
I-nfinity∞に内部に協力者がいたから、今日まで彼とニアミスを起こさなかったのか。
(という事は、少なからず一矢はこの状況を―――睦と七汐の関係を知っていたという事になる。
知っていて……あの振る舞いとは。)
手放しで気を許せないな、と 今更ながらに警戒心が脳裏をかすめた。
睦の説明により、一通りの意味は理解できた。
ならば挨拶は先ず、
舌打ちが飛び出しそうな蟠りを大きなため息に変え、七汐は自らの心境を落ち着かせた。
「澪は―――君が
「はい。あの日―――イベントでのニアミスも、僕を冷やかしに来たんだと思います。
病院勤務が休みの日はイベントに出ているだろうと考えたのでしょう。
僕は、萩原先輩との勤務を外してもらっていましたから、あの日は休みとなりましたが」
「なる程ね」
それで、INFINITY∞の事を知っていたのか。
話を聴けば、合点がいく。
七汐は再びアイスコーヒーを手に取った。
さっぱりとした甘みが、乾いた口腔内を潤してくれる。
「澪は、萩原先輩をINFINITY∞に誘うと言っていました。
それよりも先に、イベントでニアミスを起こしてしまったようですが……」
「あ―――……。誘われた。けど、断った。ニアミスするとも思っていなかったし」
「ですよね。すみません」
七汐には、睦を責めるつもりは微塵もない。
だというのに、こう何度も頭を下げられては、七汐の方こそ居心地が悪い。
「君が、謝る事じゃないだろ」
再び頭を下げる睦に、七汐は珈琲グラスをテーブルに戻し顔を上げるよう促した。
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