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Glass 45 :偶然 ページ15




春にここI-nfinity∞に引っ越してから、まだ会えていない居住者が数名いる。
七汐自身が変則勤務の為、そんな事もあるだろうと勝手に納得していたが―――

3-C(お隣さん)がまさか、同じ 職場(病院)の後輩だったとは。
しかも柏木睦は先程、意味深な台詞を落していた。



「柏木、時間あるか?」


と言っても、祥子の家を出た時点で時刻は23時を回っていた。
あまり引き止めては、互いの翌日の勤務に支障が出るだろう。
ただ、不穏の芽は出来るだけ早く、摘んでおきたい。


「―――……はい」


たっぷりの時間をかけて逡巡を巡らせた睦に七汐は家へと誘う。


「少し―――付き合ってくれないか」








昼間、病院での仕事を共にした時も感じた事だが、
七汐の唐突な誘いにも素直に従う睦は、感情を表情には出さないタイプの様だ。
これは、七汐にとってはやや苦手なタイプとも言えるが、今はそんな二の句を言っている場合ではない。

冷蔵庫に寝かせておいたコールドブリュー珈琲(水出しアイスコーヒー) をグラスに注ぎ、睦の前に置くと
“本題”を訊ねるために意気込んで口を開いた。



その時―――


「すみませんでした」


ダイニングテーブルの向かいに座る睦は、旋毛が見える程に深々と頭を下げると
突然謝罪を始める。

咄嗟に、状況が把握できなかった七汐は訝しげに双眸を細めた。



「え?」

「―――……ッ」

「いや、待て。それは、何に対する謝罪だ」


思考を回せど、ここで彼に謝罪をされる覚えはない。

日中の患者申し送りも仕事運びも極めてスムーズで恙無い。
先程睦は、“後輩の僕が先に挨拶を―――”等と気にする様子が見受けられたが、礼儀云々の話なら
七汐に指導できる程の器量はない。


ゆっくりと頭を上げた睦の表情は、相変わらず何を考えているのか読めないが
双眸を揺蕩わせる挙動から、居心地の悪さを感じている事は確かだろう。


睦は、緩慢に口を開いた。


「愚姉が、萩原先輩に大変ご迷惑をおかけしました!」

「・・・・・・。は?」


ぐし(愚姉)”とは、なかなか耳馴染みのない言葉であり、七汐が意図を理解するまでに時間を要していると、それを感じ取った睦は徐に言葉の補足を行う。


「柏木澪―――僕の姉が、萩原先輩に失礼な事をしでかした事は、噂で聞いています」

「柏木……君は、澪の弟?」

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作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年7月23日 23時

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