Glass 45 :偶然 ページ15
*
春にここI-nfinity∞に引っ越してから、まだ会えていない居住者が数名いる。
七汐自身が変則勤務の為、そんな事もあるだろうと勝手に納得していたが―――
しかも柏木睦は先程、意味深な台詞を落していた。
「柏木、時間あるか?」
と言っても、祥子の家を出た時点で時刻は23時を回っていた。
あまり引き止めては、互いの翌日の勤務に支障が出るだろう。
ただ、不穏の芽は出来るだけ早く、摘んでおきたい。
「―――……はい」
たっぷりの時間をかけて逡巡を巡らせた睦に七汐は家へと誘う。
「少し―――付き合ってくれないか」
・
・
昼間、病院での仕事を共にした時も感じた事だが、
七汐の唐突な誘いにも素直に従う睦は、感情を表情には出さないタイプの様だ。
これは、七汐にとってはやや苦手なタイプとも言えるが、今はそんな二の句を言っている場合ではない。
冷蔵庫に寝かせておいた
“本題”を訊ねるために意気込んで口を開いた。
その時―――
「すみませんでした」
ダイニングテーブルの向かいに座る睦は、旋毛が見える程に深々と頭を下げると
突然謝罪を始める。
咄嗟に、状況が把握できなかった七汐は訝しげに双眸を細めた。
「え?」
「―――……ッ」
「いや、待て。それは、何に対する謝罪だ」
思考を回せど、ここで彼に謝罪をされる覚えはない。
日中の患者申し送りも仕事運びも極めてスムーズで恙無い。
先程睦は、“後輩の僕が先に挨拶を―――”等と気にする様子が見受けられたが、礼儀云々の話なら
七汐に指導できる程の器量はない。
ゆっくりと頭を上げた睦の表情は、相変わらず何を考えているのか読めないが
双眸を揺蕩わせる挙動から、居心地の悪さを感じている事は確かだろう。
睦は、緩慢に口を開いた。
「愚姉が、萩原先輩に大変ご迷惑をおかけしました!」
「・・・・・・。は?」
“
「柏木澪―――僕の姉が、萩原先輩に失礼な事をしでかした事は、噂で聞いています」
「柏木……君は、澪の弟?」
3人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ