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いざアプローチを始めてみれば、好きにさせられるのは七汐のほう。
嫌われてはいないと自負している。
だが、そこから先の一歩に
七汐は踏み込めずにいた。
「萩原君―――今日の、うちへの“ご褒美”の事なんだけど」
「あ、はい!」
名を呼ばれ、邪心を振り払うように勢いよく顔を上げる七汐に、祥子は驚いたように目を瞬かせる。
「あ―――っと。デートはどうかな?」
「デート?」
「休みを合わせて、ちょっと遠くで。お互い現地集合なら、人の目も気にならないかな……って」
―――全然、断ってくれてもいいのよ?それがご褒美のルールだし。
一瞬思考が止り、キョトンと呆ける七汐を見て、
祥子は遠慮がちに、胸の前で手を振った。
こんな―――千載一遇の好機を断るなどという選択肢が、七汐にあるはずもない。
「いえ、行きたいです!デート」
―――精一杯、エスコートします♪
興奮気味に返事を捲し立てる七汐の前に、祥子はぺらり一枚紙を突き付けた。
全て英文で書かれたそれを、受け取る七汐の眉間には、皺が寄る。
「デートプランはうちが考えるから!その間、萩原君はソレを、翻訳してきて頂戴」
「―――……え。」
戸惑う七汐に、祥子は満面の笑みを浮かべた。
「それ、明日の夕飯分の“ご褒美”な♪勿論、断る事も出来るルールやけど―――」
祥子はあえて“逃げ道”を提示したかのように思えたが、
それは逃げ道であって、逃げ道ではない。
なぜなら、先日彼女に“英語を教えて―――”と言ったのは、七汐の方だから。
この場で七汐が発言を許される“返事”は、一つしかない。
彼が “精一杯”行わなければいけないのは、デートプランを考える事でも、祥子の“エスコート”でもない……
「精一杯、翻訳させて頂きます」
「うん♪頑張ってなぁ〜」
七汐は苦笑いを浮かべながら、薄くて分厚いその紙に、視線を落とすのだった。
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