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年末(12月31日)までに、祥子に自分の事を好きにさせると大口を叩いたと言うのに
いざアプローチを始めてみれば、好きにさせられるのは七汐のほう。


嫌われてはいないと自負している。
だが、そこから先の一歩に
七汐は踏み込めずにいた。



「萩原君―――今日の、うちへの“ご褒美”の事なんだけど」

「あ、はい!」


名を呼ばれ、邪心を振り払うように勢いよく顔を上げる七汐に、祥子は驚いたように目を瞬かせる。


「あ―――っと。デートはどうかな?」

「デート?」

「休みを合わせて、ちょっと遠くで。お互い現地集合なら、人の目も気にならないかな……って」
―――全然、断ってくれてもいいのよ?それがご褒美のルールだし。



一瞬思考が止り、キョトンと呆ける七汐を見て、
祥子は遠慮がちに、胸の前で手を振った。

こんな―――千載一遇の好機を断るなどという選択肢が、七汐にあるはずもない。



「いえ、行きたいです!デート」
―――精一杯、エスコートします♪


興奮気味に返事を捲し立てる七汐の前に、祥子はぺらり一枚紙を突き付けた。

全て英文で書かれたそれを、受け取る七汐の眉間には、皺が寄る。



「デートプランはうちが考えるから!その間、萩原君はソレを、翻訳してきて頂戴」

「―――……え。」


戸惑う七汐に、祥子は満面の笑みを浮かべた。


「それ、明日の夕飯分の“ご褒美”な♪勿論、断る事も出来るルールやけど―――」



祥子はあえて“逃げ道”を提示したかのように思えたが、
それは逃げ道であって、逃げ道ではない。

なぜなら、先日彼女に“英語を教えて―――”と言ったのは、七汐の方だから。



この場で七汐が発言を許される“返事”は、一つしかない。
彼が “精一杯”行わなければいけないのは、デートプランを考える事でも、祥子の“エスコート”でもない……


「精一杯、翻訳させて頂きます」

「うん♪頑張ってなぁ〜」


七汐は苦笑いを浮かべながら、薄くて分厚いその紙に、視線を落とすのだった。



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作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年7月23日 23時

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