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「49歳男性、肺がんで
バイタルは―――」
担当看護師の申し送りを受けながら、救急医は次々と指示をとばしていく。
七汐もまた、病棟に入院ベッドの確保を依頼した。
「維持液繋いで―――」
医師の指示を受け、七汐は駆血帯を握った。
患者の胸にはCVポートに繋がった点滴ルートがある。が、被疑薬剤をこれ以上体内に押し込む事はできない。
「右腕にIVルートを取り直します。CVポート針は吸引後に生食流して抜針を―――」
七汐の声掛けに、注射シリンジを持って接続部を外そうとする救急スタッフの手を止め、
確かに、先程まで抗がん剤投与を行っていた点滴ルートを、そのままの格好で扱うのは危険だ。暴露対策に詳しい彼に任せた方が安全だろう。
「ルート、取れるんですか？」
右上腕を駆血する七汐に、男はポート針を抜きながらゴーグル越しに冷めた視線を向けた。
ショックバイタルな上に、度重なる抗がん剤治療で痛んだ血管。
CVポートが埋め込まれている事を考えると、確かに血管確保が困難なケースだろう。
「それをやるのが、俺の仕事」
予想通り、駆血した腕に血管は怒張せず。皮下で針先を探れば容易に内出血を起こしてしまいそうだ。
留置針のキャップを開け、指先に神経を集中させた。
「右上腕22Gでルート確保。
「―――……」
一歩離れたその男に、七汐は視線を向けた。
彼は
「他に、申し送りはありますか？」
「いえ。」
「では、引き受けますね。えっと―――」
「3-Cの柏木、です。何かあったら連絡下さい……
「は？」
先程の患者状態申し送りとは異なり、低く抑揚のない声で話された言葉に、七汐は耳を疑った。
ざわつく救急室の騒音で、聴き間違えたのだろうか。
確認しようと振り向く七汐に背を向け、柏木は脱いだPPEをビニール袋に包んでハザードボックスへと投げ入れる。
ピピピピピ……
赤い点滅で音を鳴らすモニターに、七汐の視線は戻される。酸素飽和度が80台まで低下したようだ。
念のため挿管の準備を整える頃には柏木の姿はなく、結局あの言葉の真相を確認できずに終わった。
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