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どうやらこのタイミングで小休憩となったようで、
外で作業をしていた男性達も、のそのそと家の中に入って来る。
各々が散らばった椅子を引き寄せ、広間の中は賑やかな声で溢れた。
「もともとここは、小さな診療所だったんだ」
心の中を探られたかと思い、僕はびくりと肩を震わせる。
律は僕に笑顔を向けると、目の前に置かれた稲荷寿司に手を伸ばし、「美味しい!」と頬張った。
「だった……って、貴方はここの事を、この町の事を知っているの?」
「勿論!夏休みにはここに入り浸って、近くの川でザリガニ捕ったりしていたよ。
診療所に訪れた患者さんの椅子にザリガニを置いて怒られもしたっけ」
懐かしそうに細められた青い瞳は、海を見つめていた昨日と同じ目をしていた。
(この場所を知っていたから、昨日はあんな表情をしていたんだな)
一つ不思議が解けると、僕は自分でも驚くほど律に好奇心を寄せた。
昔話を始める律に、周りで掃除をしていた女性達が懐かしそうに集まって来る。
「そうそう!律君直ぐ悪戯するから、古先生に怒られていたよね」
「あはは!その節はご迷惑をおかけしました」
「いいのよ!律君のおかげで、この診療所が陽だまりみたいに温かかったのを覚えているわ」
「あの悪戯っ子の律君が、今では大病院の凄腕先生だものね!去年、うちの夫がお腹を押さえて転がっていた時も、律君が緊急手術してくれてね。おかげで今では元気元気!」
「うちのおじいちゃんだって、半年前大腸がんの手術をしてくれたの、律君よ!癌だなんて言われて慌てていたけど、律君が丁寧に説明してくれたからおじいちゃんも手術納得して、今は抗がん剤治療を受けてるわ」
静々と紙コップを口に付けながら、僕は周りのおばさん達の話に聞き入っていた。
どうやら律は隣の市にある東大原総合医療センターの外科医で、昔ここで律の祖父が診療所を開いており、子供の頃の律はよく診療所に遊びに来ていたらしい。
「そう言えば、最近は律君、医療センターの外来でお見かけしないねぇ」
不思議そうに首を傾げる女性達に、律は手にしていたコップを机に置いた。
「半年前から、大学の恩師が誘ってくれた総合診療科の勉強をしています」
「へぇ!勉強頑張っているのね」
「偉いわぁ」
「ウチの息子なんて―――」
「それならうちも……」
流れるように世間話を始める女性達の話の隙間を縫って、僕は隣に座る律にこっそりと尋ねた。
「総合診療科って、何?」
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シオン(プロフ) - この囲碁の影の人は誰か凄く気になります。 (2022年9月27日 7時) (レス) @page49 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 自分のキャラも登場させてくれてありがとごさいます。 (2022年9月19日 22時) (レス) @page38 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ(プロフ) - 風を出演させて下さりありがとうございます!こんなにも早くサロンのお手伝いができるとは思わなかったのでとても嬉しく思います!風の態度や話し方、律さんへの接し方と日向くんへの接し方の温度差も私が希望通りです!ありがとうございます! (2022年9月19日 16時) (レス) id: 64ca5697bb (このIDを非表示/違反報告)
シオン(プロフ) - 律さん、風邪大丈夫になるのですか!心配です。 (2022年9月19日 8時) (レス) @page30 id: 1c08a873e8 (このIDを非表示/違反報告)
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