Holistic Blue

├ ページ40

・

大垣家では、高齢の祖母と父と日向の3人で暮らしている。
母は日向が小学校の頃に他界しており、祖父も数年前に亡くなった。

その為、祖母が母の代わりに家の事を支えてくれていた。



しっかり者で優しい祖母の様子が変わり始めたのは、
祖父が亡くなった後だ。

初めは祖父を失った悲しみから気力を無くしているのかと思っていたが、
次第に外出を避けるようになり、
縁側から庭を眺めては、ぼーっとしている事が多くなった。

大丈夫と言い張る祖母を父が無理やり病院に連れて行き、
数種類の薬が処方されたが、

最近ではその薬の飲み間違いが増えたり、
日向と父の洗濯物を取り違えたり。

遂には一昨日、鍋を火にかけている事を忘れ、
危なくも小火を起こすところだった。



父は仕事があり、日向の夏季休暇が終わった事で、祖母は日中独居となってしまう。

一人にするのは不安だと、父は施設への入所も考えているようだ。



「ふむ。認知症症状の進行―――か」


日向の話を聴いた風は、長い袖で口元を覆った。


「認知症には二つの治療法がある。
一つは今お祖母さんが行っている、”薬を使った治療法”と、
もう一つは”薬を使わない治療法”だ」


日向の祖母は既に、軽度の認知症症状に対する内服療法を行っている。
症状の進行に伴い、今の薬が効果がないと判断されると処方内容を変更する必要がある為、
病院を受診する方が良いとアドバイスを受けた。


「そう、ですよね……父に話して、先生に相談してみます」

「ああ、その方がいい。効果のない薬は、ただの毒だからな」


祖母は、病院に行く事を快く思っていない。
以前連れて行こうとした時も大騒ぎし、説得するのに大変だった。

どう切り出そうかと、日向は頭を抱える。
心配気に俯く日向に、風は静かな笑みを向けた。


「もう一つ、薬を使わない治療法があるのだが―――」



・
・
・

├→←Karte.11　お気に入りの場所になれるように

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す