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先輩の左胸には上品な薄桃色の花が付いていて、その横顔はほんのりと期待が滲み出ていた。僕は何て言葉をかけたらいいのか、わからないぐらい子供で、校庭で無邪気に走り回る卒業生の集団をぼーっと眺めていた。すると先輩が「時透くん程仲良くなれた後輩は初めてだな」って言った。僕は膝から崩れ落ちそうなのをぐっと堪えて、彼女を見て、僕も、と笑って見せた。
「先輩でこんなに仲良くなれたのはA先輩が初めてだよ」
「1度も敬語じゃなかったけどね。時透くん」
「A先輩はいいかなって思っちゃったんだよね」
「何それ。でもそのおかげなのかな、こんなに仲良くなれたのは」
「僕に感謝してよ」
「はいはい」
僕は、先輩に追いつきたかった。日に日に大人になって、僕を置いていく彼女を必死に追った。でもそもそも、僕と彼女は、同じ線上にはいなかった。彼女は、僕を後輩としてしか見ていない。追いついたとしても、同じ線上にいないから、彼女に会うことは出来ない。
____悔しくて、苦しくて。
「時透くんが今度受験生だね。どこに行きたいとかあるの?」
「特に、ないかな。まだ」
「そうだよね。私もそうだったな、この時期は」
「僕、頭いいから先輩よりいいとこ行っちゃうよ。きっと」
「うん。きっと行けるよ、時透くんなら」
やっぱり先輩は馬鹿だ。大馬鹿だ。いや、大馬鹿なのは僕の方だ。追いついたところで無駄なのに、僕はまた懲りずに追うつもりでいるんだ。僕が大人になれば、先輩の僕を見る目が変わるって、信じている僕が1番馬鹿で、見苦しいんだ。
「時透くん。元気でね、今までありがとう」
この季節の独特なぬめっとした生温い風には、桜の香りが添えられていて、その風が先輩の髪を揺らした。そのまま、風が先輩を連れて行ってしまうように感じられた。ゆったりと、優しい笑顔で先輩は未だに賑やかな声が弾む教室に戻って行った。
「A先輩。好きだよ」
はるか遠くに消えた背中に、気づけば呟いていた。誰にも気付かれることなく、それは消えていた。ただ、消えていくのに途方もないほどの寂しさが一緒にあって、僕は人目も気にせずあの時の先輩のように泣いた。
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環(プロフ) - 蓮ちゃんんんんんん!番外編!さねみんバースデー書いてくれてありがとう!!!!喧嘩してるはずなのに心がぽっかぽかになりました…!!また蓮ちゃんのさねみん読めて幸せです!!最後のむいくんも最高でしたっ!ほんとにありがとう!実弥さんお誕生日おめでとう! (2021年11月29日 22時) (レス) @page50 id: 940f9d3174 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 蓮ちゃん…!番外編書いてくれて本当にありがとう!久しぶりに蓮ちゃんの通知が来て大興奮したよ!可愛くて初々しい二人にニマニマしてました!大好きなお話です!お蔵入りにならなくてホントによかったぁー!!! (2021年11月29日 21時) (レス) id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 蓮ちゃん番外編ありがとう!!!久々に蓮ちゃんのお話が読めて嬉しい!!すごく、幸せな気持ちになりました!!本当にありがとう!!たまに息抜きで戻ってきてな! (2021年11月29日 21時) (レス) @page49 id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - 蓮ちゃん番外編!!書いてくれてありがとう!やっぱりれんれんの文章はとても読み応えがあって引き込まれます。ってコメを残そうとしてよしいつもの1コメの人まだいないよっしゃーって思ってたら取られてたぁぁぁぁぁぁ← (2021年11月29日 21時) (レス) @page50 id: 7ac5652e2e (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 番外編ありがとうそして久しぶりの夢書きお疲れ様おかえりなさい大好きです!!もう、ちょっと細部まで語りたいのでここではあえて書きませんが本当に文章といいキャラ同士の掛け合いといい全てが好きです最後のむいくんにもニヤケ止まらんかった!さねみんおめでとう! (2021年11月29日 21時) (レス) @page50 id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年2月25日 21時