ホイップ増量で。2【不死川実弥】

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「ねえ…何見てるの」



彼女はまたいた。これで彼此2週間程だ。泣かなくなったが、焦点が定まっていない瞳で立ち尽くすという表現が彼女にぴったりだった。僕はその日、シュークリームを買って彼女に話しかけた。直感で、彼女には堅苦しい敬語は取っ払っていいと思った。突然のことに肩をピクリと揺らした彼女は、困惑した様子で小さく、いや、と言って僕の上履きの色を確認した。僕を咎める素振りもなく、彼女は視線を戻すと「フラれちゃったんだ。私がいけないんだけどね」と眉を下げた。いつもの僕ならきっと、惨め、馬鹿、だなんて嘲笑うんだろうけど、何故か僕はそれが出来なくて。婉曲的な言葉を探したりなんて、柄にもないことを頭の中で繰り広げていた。それでも結局、僕から出た言葉っていうのは「これ。」っていう1言だけだった。



「…シュークリーム？ありがとう。好きなんだ私」
「時透、無一郎」
「木下Aです。よろしくね、時透くん」



…それから僕らは、校舎内ですれ違えば会話を交わす程、距離が縮まっていた。それだけじゃなくて、帰りに会えば一緒に駅まで向かうし、それは朝も同じで、なんだかんだA先輩と過ごす時間が多いなって思ってた。その日も、帰りにたまたま駅のホームで会って、僕に気づいたA先輩は小さく手を振った。彼女は単語帳を読み込んでいて、そういえばもう少しで3月だなって僕は気づいた。



「単語？テストなの？」
「ううん。受験生になっちゃうから少しずつね」



A先輩の単語帳は、付箋が並ぶ少し疲れたページと真っ新で元気なページがあって、付箋付きのページの方が多かった。受験生っていう言葉を消化したつもりなんだけど、小骨が喉に刺さるような違和感が僕に残った。だから、それを消したくて僕は、今から遊びに行こう、と無理矢理彼女の手を引いた。僕らの背丈は然程変わらなくて、でも勢いで握ったA先輩の手は、小さくて細くて、僕のそれとは全然違った。時折、触れ合う肩だって僕のとは違って柔い。確実に女の子だった。手から伝わる彼女の体温が、僕に何かを訴えかけているんだけど、それに気付きたくない僕は、いやもう気付いているけど認めたくない僕は、「カフェの新作飲み行こう」なんてあっけらかんとA先輩に言うんだ。

今の僕は、きっと、誰よりも見苦しいんじゃないかな。

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