ホイップ増量で。2【不死川実弥】

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実弥くん、Aと、少しずつ距離が縮まるのをひしひしと感じた。春休みは彼と多くの時間を共に過ごした。最近上映された映画を見に行ったり、買い物に出かけたり、前のように鍋を一緒に囲んだり、食器棚に実弥くん用の食器が並ぶようになったりと、付き合っていれば何ら変哲もない日々を繰り返し、気づけば3月の半ばになった。でも、実弥くんはキス以上のことをしてくることは1度もなかった。けれど、以前の恋のトラウマを完全に克服しきれていない私には寧ろ都合がいいのかもしれないと思いつつ、自分には女性としての魅力がないのかという不安を払拭出来ずにいた。



＿＿＿恋をすると、どうしても人は欲張りになる



実弥くんはいつだって私を1番に考えてくれた。恥じらいながらも、不器用に好きだと言ってくれるし、2人きりの時には甘すぎて溶けてしまうぐらいに抱きしめてくれた。なのにもっと彼と近づきたい、距離を縮めたいと欲深くなっていくが、怖いと矛盾ばっかで滅茶苦茶な自分が嫌だった。

そんな気持ちを抱えたまま、ホワイトデーにと実弥くんは私の大好きなシュークリームをプレゼントしてくれた。サクサクのシュー生地に、甘すぎずしっとりとした口当たりのカスタードクリームが口一杯に広がった。ちなみにバレンタインデーは、甘酸っぱい苺のタルトを贈った。私の口元についたクリームは、実弥くんからの舐めとるようなねっとりとしたキスによって拭われた。



「うまいな」
「…美味しい」



ほくそ笑む彼と恥ずかしさに顔が赤らむ私。彼には一生敵わないと思いながら、シュークリームに齧り付く私の耳に、実弥くんの「なァ」という声が聞こえた。



「……これって」



見せてきたスマホには、3月20日に有名温泉地にあるホテルの予約画面だった。その日時に何があるのかを理解するのに時間は必要なく、私は驚きのあまり声を出すことが出来なかった。そんな様子の私を見て、実弥くんはクツクツと喉を鳴らして私の頭を撫でた。



「誕生日ぐらいはなァ」
「……ありがとう、実弥くん」



嬉しすぎて堪らない私は、勢いよく彼の胸に飛び込んだ。普段、恥ずかしがってこんな大胆なことをしない私からの突然のことに、目を見開いた実弥くんだったが、しっかりと受け止めてくれる彼の逞しくて優しい腕と香りに、自然と頬が緩んでしまった。

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