ホイップ増量で。2【不死川実弥】

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「…僕、フラれるんだよね当たり前だけど。
でも僕、A先輩のことずっと好きだったから簡単には諦め切れない。
だから教えてほしい、僕にはなくて不死川先輩にあるものは何なの。」





時透くんは淡々とした口調だった。浅葱色の眸子の奥に反射する私とは対称的で冷静だった。彼に訊かれても、私ははっきりとしたものを答えることがどうしても出来なかった。暫く沈黙が続き、痺れを切らした時透くんはため息を吐いた。私の両手をとって、諦めないよ僕、と言った。彼の手からゆっくりと自分の手を引いた。





「…実弥くんは、いつも未来の話をしてくれる」





時透くんは静かに眉を顰めながら私を見ていた。首元の実弥くんからプレゼントしてもらった四つ葉のネックレスが、陽の光に小さく反射していた。私はそれをぎゅっと握りしめて、1度、深呼吸をした。





「些細なことかもしれないけどそれが本当に嬉しくて。」





実弥くんは私と付き合う前から、私との未来を口にしてくれていた。その度に、私も実弥くんとの未来を想像できた。2人で見る花火はきっと涙が出るくらい綺麗なんだろうな、運動神経が良い実弥くんはきっとスノボとかも上手だろうな、実弥くんの誕生日はケーキを手作りしたいなって、ありきたりだけど幸せな日々が簡単に脳裏に思い浮かんだ。




「ずっと先の未来まで実弥くんと一緒にいていいんだって思えて幸せなんだ。」




本人がいるわけでもないのに、目頭がじんと熱くなり零れぬよう顔を上げた。青空には疎らに白い雲が張り付き、太陽がその間から顔を出しては柔くて温かな光を降らしていた。それはまるで光明のようだった。




「…時透くん、好きになってくれてありがとう。」




俯き、黙ったままの時透くんに私はそう告げた。美しい髪に隠されて彼の顔は見えなかった。でも恐らく私の想いというものは彼に伝わったと感じた。私は立ち上がり、じゃあ、と背中を向けた。すると「ばいばい、A先輩」と声がした。ここで振り向くのはダメな気がした。




「友達で、いようね。」




再度、時透くんの声が聞こえた。その声に私は振り向いてしまった。時透くんは少しだけ赤い目で笑っていた。手を振りながら。私が泣くのは御門違いだ。口をぎゅっと結んで、涙が堰を切らぬよう大きく目を開いて私は1度だけ手を振った。

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