ホイップ増量で。2【不死川実弥】

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「A先輩おはよう」
「かわい。」
「これあげる」
「好き」




明くる日からの時透くんからの積極的な行動に私は振り回された。ある日は朝、私の頬をするりと撫でながら挨拶を交わしたり、ある日は学食ですれ違い様に耳元で囁いたり、ある日は前みたいに私の好きなシュークリームを持ってきてくれたり、ある日には目を見て言ってきた。彼と会うたびに私は伝えようとするも、毎度の如くはぐらかされてしまった。

実弥くんとも会えない日々が続いていた。4月の履修登録期間というのは、1年間の時間割を決める大切な期間であるためより多くの授業に参加しなければならない。それ故に、3年生である彼は授業が詰まっていた。連絡も頻繁にとれず、会えない上に時透くんのこともあり余計に私の不安を煽った。


…でもきっと昔の私だったら、何も動けていないと断言できるけど今は違う。


私は1年生が講義をする教室にへと足を運んだ。今まで、何だかんだで時透くんから受け身を取っては肝心なことを言えない自分だった。それはきっと時透くんを傷つけてしまうことを、無意識のうちに避けていた結果だと理解した。それと同時にズルズルと平行線を辿る今の状態の方が、彼を期待させてより結果的に彼を傷つける未来に繋がると私は思った。腹を括れ、と両頬を強く叩いた。その時、ちょうど終わりを迎えたらしく教室のドアが勢いよく開かれた。続々と出てくる1年生の中に時透くんを見つけた。私に気付いた時透くんは、気まずそうに眉を寄せた。その引きつった表情は、これから私から紡ぎ出される言葉を予知しているかのようだった。




「時透くん、話しがあるの」
「僕も話がしたいなA先輩と。」




互いに表情が緩むことなく強張ったまま、私たちは中庭に移動してベンチに腰掛けた。4月の下旬に差し掛かろうとする今日の風は、新緑に染まりつつある桜から若葉の香りを漂わせていた。遠くから和気藹々とした学生の声が聞こえたが、私たちの間に流れていたのものはヒリヒリと徐々に重さが重なるようなものだった。この期に及んで、まだ躊躇して声を上げられないでいた私を見て、時透くんが先に口を開いた。




「…僕にはなくて、不死川先輩にあるのは何？」

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