ホイップ増量で。2【不死川実弥】

54 ページ14

*







旅の終わりの締めくくりは足湯を楽しめるカフェだった。築年数は有に70年は超えているであろう民家を改装していた。眼前に広がる大自然を堪能しつつ、甘いスイーツと足湯に癒されながら思い思いの時間を過ごす多くの客がいた。

私はアイスカフェラテ、実弥くんはミルクティー、さらにこのカフェ名物のパフェを注文した。もっちもちの白玉と甘さ控えめの餡子が、冷たいソフトクリームと相性抜群だった。甘党な実弥くんは、その美味しさに感動したようでおかわりをしていた。



「本当に甘いの好きだね」
「…るせェ。」


うま、とぱくぱくパフェを口に運ぶ。餡子がうめェ、とぶつぶつ言う彼を見ているのは面白かった。ふと私は思ったことを口にした。



「…ホイップ、増量しなくてよかったの？」



私の言葉に、ピクリと肩を震わせた。食べる手を止めた実弥くんは私を横目にチラッと見て、んとな、と詰まらせていた。メニュー表にはホイップ増量可、との記載があったが実弥くんは増量しなかった。小首を傾げていれば、「気分じゃ、ない。」とパフェを口に掻き込んだ。するとむせ返り、慌ててミルクティーを飲んだ実弥くん。



「…死ぬかと思ったァ」
「慌てすぎたよ」



紙ナプキンで口元を拭いながら、はぁとため息を溢す彼を見て笑った。彼の慌てっぷりには周りにいたお客さんも驚いていた。ふわりと吹く風が私と実弥くんの髪を揺らした。暖かな日差しと微かに香る春の匂いが私たちを包み込んでいた。



「…今度はどこに行くか」
「んー、次は海とか」
「A泳げんのかァ？」
「…自分では泳いでるつもりなんだけど沈んでいくの」



「だめじゃんそれ。」と笑った実弥くんを見て私も笑った。また、当たり前のように未来の話をしてくれる彼に、胸がいっぱいだった。お花見も花火も行きたい、秋は美味しいものを食べたい、冬はいつもみたいに鍋をしよう、次のクリスマスは、っていくらでも続いて繰り返す未来を、貴方と話すこのひと時が幸せだった。



「実弥くん、ありがとう。」



気づけば口にしていた言葉だった。突然のことに口を詰まらせていた実弥くんだったが、頬を染めながら私の頭を撫でた。大好きな彼の手は優しくて温かった。

55→←53

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す