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店を予約している、と。それだけ告げられ手を引かれる。水族館を後にして、賑わいを見せる大通りを進む。並木の木々は電飾で着飾ったドレスを見に纏い、夜の街をその瞬きは儚くとも懸命に照らしており、人々の心にまでその輝きを灯す。
陽気だけれど聖なる夜に相応しい優しく温かな旋律が耳を優しく撫でるだけじゃなく、着実に大きくなっていく私の胸の音を飲み込み隠してくれる。午後19時を過ぎたクリスマスの夜の闇は、仄かに寂しさを伴いながらも1秒、1秒を確実に溶かしていく。
カランコロン。
聞き慣れて、でも少し違う鈴の音の先から暖かい温風が吹くと同時に、いらっしゃいませと耳に届く。「予約した不死川です。」と答えれば、こちらへと案内された。
店内の前方にある大きなガラス張りの向こうには規模は小さくとも、そこらへんのものに劣らないイルミネーションが庭に施されていた。赤やオレンジなどの暖色が入り混じるランタンが、天井に吊るされて、それが壁に飾られた赤、黄、紫、蒼といったドライフラワーを照らし、さらにはそれが温かみが溢れ出る店内を作り出していた。
満席に近い店内を進み用意された席は、イルミネーションを誰にも邪魔されることなく見れる窓の側で、革張りの赤いソファが気持ちよかった。
「ここ、ノンアルの飲みもんが美味いらしい。」
「素敵なお店ですね」
お酒が飲めない私を気にかけてくれたのだろう。自分も強い方じゃない、と確かにそうかもしれないが単純に嬉しかった。ありがとうございます、と今日何度目かわからないそれを彼に伝えれば相も変わらず「おォ」とぶっきら棒だ。
「また迷ってんのかァ」
「…どれも美味しそうで」
海老と地場野菜をふんだんに使ったアヒージョや、バーニャカウダ、地元の農家さんから仕入れた新鮮な卵を使ったスパニッシュオムレツ、1つ1つ丁寧に焼き上げる手ごねハンバーグなど、どれもこれも頬っぺたが落ちるであろうものばかりだった。
「全部食べれたらいいのにな」
「また来りゃいい。」
飲めるようになったらまた。彼はまたさらりと未来を口にした。眉を少し下げて笑った。私の好きな笑顔だ。はい、と素直に口に出来たのは恐らく、クリスマスの夜という特別な魔法がかけられていたからだ。彼との未来を少しだけ、私も、想像できたからだ。
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三月の専属ストーカーなつめみく - 宇随さんの小説でホイップ増量でェってセリフがリンクになってたから飛んでみたらいきなりさねみんがホイップ増量でェとか言ってて吹いた。 (10月25日 16時) (レス) id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - にじさん» にじさん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんらしさがなかったら…と不安でしたし、皆さんが想像しやすいように描写の方も力を入れているのでそう言って頂けて嬉しいです、ありがとうございます( ; ; )今後も頑張りますのでよろしくお願いします…! (2021年2月21日 23時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
にじ(プロフ) - コメント失礼します。蓮さんが書く実弥さんとても好きです…。こんな恋がしてみたい!ときゅんきゅんしてます…!描写も一つ一つが丁寧でとっても素敵で…これからもコッソリと更新を楽しみにさせて頂きますね。 (2021年2月21日 17時) (レス) id: 7dcf5a18d1 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - パチ麻呂さん» パチ麻呂さん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんとの恋を楽しんで頂いてるみたいで私も嬉しい限りです!労いのお言葉までありがとうございます…!甘くしていけるよう努力してまいりますので今後もお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いします! (2021年2月19日 22時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - コメント失礼します。文章1つ1つが可愛らしいというか、恋してる気持ちになれて堪りません( ; ; )スマホ片手にジタバタしちゃうくらいキュンキュンします。これからも楽しみにしています。お体に気をつけて蓮さんのペースで更新頑張ってください! (2021年2月19日 5時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年1月26日 21時