２８ ページ28
天気の悪い週が続き、思うように事が進まない。
会えない日が続けば続くほど、彼への想いは募るばかり。
会いたいと思ったときに連絡を取れないもどかしさが、ここ２ヵ月以上ずっと続いている。
ましてや、こんな自由のない環境なら尚更だ。
「ただいま」
「おかえり。遅かったわね」
妻がこうやって言うのは、たいてい機嫌の悪いときだ。
今日みたいに２２時なんて時間になれば、怒ってないほうが珍しいほど。
伝えた時刻よりも遅く帰ろうものなら、どうして時間通りに帰宅できないのかと責められる。
なぜそんなふうに言われなければいけないのか、５年経った今でも理解できぬまま。
世間体だけでやってきた夫婦生活も、彼と出会ったことで少しずつ俺の中で変化が生まれていた。
「残業だよ。仕方ないじゃん」
「はぁ！？夕飯作った後に連絡してきておいて何言ってんの！？」
「急な対応が発生することだってあるだろ。何度も繰り返してるわけじゃないのに、１回やそこらで文句言うなよ」
「何その言い方！こっちがどんな思いで待ってたかわかってるの！？」
「もう怒鳴るなよ…頭痛くなる」
「ちょっと！！翔！！！」
普段ならなんとか宥めようと謝る素振りくらいは見せるんだけど、こんなに口答えしたのは初めてかもしれない。
後輩が請求書の手数料額を間違ってしまい、そのまま経理に通したら取引先から指摘が入ったのだ。
５年前の自分とはもう違う。
前は働きに出ない妻の分まで養おうと必死になってきた。
でも今は、自分のために働きたい。
こうして後輩のカバーをすることも、評価に値するわけだから。
いずれもっと裕福な家庭を築いて、子供ができて、家族で住める家を買って…そうしたいと思うからこそ働いてるのに。
どうしてわかってくれないのだろうか。
「はぁ…疲れた、」
ジャケットを脱ぎネクタイを床に捨てると、ベッドに仰向けのままドサッと寝転んだ。
真っ暗な天井を見上げ考えるのはいつも彼のこと。
今、何してるのだろうか。
目を瞑るといつも思い出す。
嫌みのない柔らかな笑顔を見るたびに身体の芯から癒されるようで。
汗ばんだ額に赤く染めた頬。
涙をいっぱいに溜めた瞳で見つめられれば、俺は崩れ落ちそうになる。
でも、そのとき彼は言う。
『翔くんが好き』
って。
その瞬間俺は現実に引き戻される。
鼓膜が破れそうなほど美しい台詞からも耳を塞ぎたい思いになる。
どうして俺はここで彼を抱いているのだろう、と考え始めたら最後。
何も聞かなかった振りをして、腰を激しく揺さぶるだけ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 191人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
京(プロフ) - 碧央。さん» 碧央さん、ありがとうございます！詳細な感想までいただけて…本当に本当に嬉しいです！！まだまだ書き続けたいと思いますので、今しばらくお待ちいただければと思います！ (2021年1月24日 1時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - ゆうきさん» ゆうきさん、ありがとうございます！！細かく読んでいただけて大変嬉しく思います。続編はもう少々お待ちくださいませ！ (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - butazch715413さん» ありがとうございます、そう仰っていただけて本当に励みになります！続編は書く方向で進めますのでもうしばらくお待ちくださいませ。 (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
碧央。(プロフ) - 初めまして。毎日読みに来るのが楽しみで続きが気になって仕方ないほどにとても好きな物語でした。切なく胸が痛くなる場面や、ドキドキして高鳴り、にやけてしまう程ラブラブな場面、とても楽しませていただきました！続編読みたいです！お願いします！ (2021年1月23日 23時) (レス) id: c1ed4221ec (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - 京さん、初めまして。京さんの描く色っぽくて魅力たっぷりな大野さんが大好きです。お話の更新をいつも心待ちにしておりました。このお話の続編、是非是非お願い致します！楽しみにしております！ (2021年1月22日 11時) (レス) id: 096605d473 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：京
| 作成日時：2021年1月3日 1時
