２１ ページ21
まるで操り人形のように、彼が囁けば自然と行動に移した。
何を言われても拒否したいという意思はなく、恥ずかしい気持ちはあっても、今彼は俺だけを見てくれているっていう優越感のほうがずっと大きい。
そんな時間も過ぎるのはあっという間。
結局途中でお風呂を出てしまったため、翔くんは行為の後すぐ温まりに行ってしまった。
俺はしばらく余韻でベッドにうなだれていたが、ふとカーテンの間から見えた月の光に誘われるように外へと出た。
坂の上にあるこのマンションから見る夜景は格別だ。
ベランダも広いし、友達とかいればみんなでパーティーとかできるのだろうけど。
あいにく、人が集まるのは苦手だし、人脈もない。
夜空を見上げていると、窓を開閉する音が聞こえた。
「ここにいたんだ」
「あっ、ごめん…」
「何で謝るの？すごいねー。こんな綺麗に夜景が見えるんだ」
「うん。いいよね。見るだけならタダだし」
夜風に髪を靡かせていると、ふわっといつもの香水の匂いが鼻をついた。
シャワー浴びたはずなのに、どうして？
身体に回された腕を見ると、きちんと腕時計もつけていて。
先ほどまでのことがなかったかのように、来る前と同じ状態になっている。
柵にもたれかけている俺を後ろから抱きしめたまま、カチッと顔の横で煙草の火を付けた。
「あー…いいなぁ、ここ。落ち着く」
「ほんと？いつでも来ていいんだよ」
「うん。ありがとう」
…それで、あとは？
次はいつ来るのかとか、どこに出掛けようかとか、そういう話は全然してくれないんだ。
次を期待しているのは、俺だけってこと。
「翔くん、もう帰っちゃうの…？」
彼の腕を掴みながら聞く。
「そうだね。これ吸い終わったら行こうかな」
煙草の火種はあと半分くらいの位置にある。
このまま消えなきゃいいのに。
たった２回しか会ってないのに、こんな気持ちでいるのはおかしいことなのかな。
同じことを望むのは、ただのワガママなの？
「行かないで、」
耐えきれず身体を反転させると、正面にいる彼の胸に飛び付いた。
その反動でぽろっと灰が落ちる。
翔くんはそのまま煙草を捨てると、その手で髪を優しく撫でた。
「翔くんが、好き」
流すつもりなんてなかったのに、気付けば胸元に涙が染み込んでいて。
髪を撫でていた手は一瞬動きを止めて、行き場をなくしたように宙に浮いた。
そしてそれ以上続けることはなかった。
気付かない振りをするのは、どうかこれが最初で最後であってほしい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 191人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
京(プロフ) - 碧央。さん» 碧央さん、ありがとうございます！詳細な感想までいただけて…本当に本当に嬉しいです！！まだまだ書き続けたいと思いますので、今しばらくお待ちいただければと思います！ (2021年1月24日 1時) (
レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - ゆうきさん» ゆうきさん、ありがとうございます！！細かく読んでいただけて大変嬉しく思います。続編はもう少々お待ちくださいませ！ (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
京(プロフ) - butazch715413さん» ありがとうございます、そう仰っていただけて本当に励みになります！続編は書く方向で進めますのでもうしばらくお待ちくださいませ。 (2021年1月24日 1時) (レス) id: 877cf6680c (このIDを非表示/違反報告)
碧央。(プロフ) - 初めまして。毎日読みに来るのが楽しみで続きが気になって仕方ないほどにとても好きな物語でした。切なく胸が痛くなる場面や、ドキドキして高鳴り、にやけてしまう程ラブラブな場面、とても楽しませていただきました！続編読みたいです！お願いします！ (2021年1月23日 23時) (レス) id: c1ed4221ec (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - 京さん、初めまして。京さんの描く色っぽくて魅力たっぷりな大野さんが大好きです。お話の更新をいつも心待ちにしておりました。このお話の続編、是非是非お願い致します！楽しみにしております！ (2021年1月22日 11時) (レス) id: 096605d473 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：京
| 作成日時：2021年1月3日 1時
