透明な君と【Fischer's】 (ページ38)

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さんじゅうはちページ38

2人で歩く帰り道で会話はなかった
ただ重い空気が流れるだけ

腫瘍、死ぬ、余命半年
日常では考えないような言葉の並び

そんな急に言われたって
はいそうですか、って受け入れられないでしょ？

貴「…モトキくんの家に行きたい…｣
泣きそうな声で言う

ﾓﾄｷ「…いいよ、行こっか｣
俺の声も震えていた

Aさんがどこにも行かないように
右手を優しく握って隣を歩いた

家までの距離がすごく長く感じた
アパートについて鍵を開けて中に入ると

ﾓﾄｷ「…っ！｣
後ろから抱きしめられる感覚

貴「モトキくん…モトキくん…｣
何度も俺を呼んで泣いた

ﾓﾄｷ「Aさん…｣
小さく名前を呼んだ声は床に転がる

強く腰に巻きついていた腕が緩む
それを感じながら

Aさんの腕を解くと
貴「きゃっ…｣

お姫様抱っこをして
部屋の中まで連れていく

貴「モトキくん…私の事捨てていいよ…？｣
突然放たれた言葉

ﾓﾄｷ「捨てるって何…？｣
ぎゅっと唇を噛むから血がにじんで痛々しい

人差し指でそっと唇をなぞる
目が合うとAさんの目から涙が溢れた

貴「もうすぐ死ぬ人となんて一緒にいたくないでしょ？｣
大きくて綺麗な瞳から

勢いが増して止まらない水
ﾓﾄｷ「何言ってんの…？俺にはAさんだけだよ…｣

もうすぐ死ぬんだ、じゃあもう嫌いだわ
とか、そんなわけないじゃん…

ﾓﾄｷ「ずっと一緒にいたいよ…｣
そっと抱き締めれば声を上げて泣き出す

貴「いいの…？あと半年だよ…？｣
ﾓﾄｷ「半年もあるから…毎日逢いに行くから…｣

背中に回す腕に力が入る
抱き合ったまま2人で泣いた