Day.3-3 ページ10
手を伸ばすと、彼女の指先に触れた。
その指先は、不思議なくらいに冷えていた。
彼は少々思案を巡らせる。
在り来たりなことでも何かを知ろうと、聞きたいことを改めて考えた。
「えっと、いくつですか？」
「歳？歳は……えっと、17……うん、17歳」
「そうなんですか。ぼくといっしょですね〜」
「ふふ、奏汰くんと同い年だったんだ」
ふたりで笑い合ったが、依然彼女は空を見上げたままだった。
短い沈黙の中で、また聞くことを探す。
「どうして、『うみ』がすきなんですか？」
奏汰が問うと、Aは少し目を見張ってこちらを見た。
どうしてそんなことを聞くのだろう、という不思議そうな顔に、安心も含まれていた。
「波の音が好きなんだ。目を閉じて耳を澄ませていると、すっごく安心して……心の底から安らげるから」
「わかりますよ。『なみのおと』は、やさしくて、おだやかで……」
「そうそう。あとは、潮の香りが好きかな。好みが分かれそうだけど、私はなんだか海に来た！っていうことを実感できて、楽しい気分になってくるから好き」
「なるほど〜。『しお』のかおりと、『なみ』のおと……『うみ』にこないと、『たいけん』できませんね」
そう言うと、ふたりは目を閉じ、波の音に耳を傾けた。
全てを包み込むような優しい音色は、少々眠りを誘うくらいの安心感をもたらす。
奏汰はふと目を開いてAを見ると、彼女がこちらを見つめていた。
目が合うと、ふふ、と微笑んだ。
空の水色と、夏の香り。
奏汰に芽生え始めている新しい感情は、少しずつ主張を始める。
触れていた指先を、キュッと握りしめた。
彼女は顔をほんのりと赤くして、握られた指を見つめた。
「Aは、どこからきたのですか？」
唐突な質問に、Aの動きはピタリと止まってしまった。
奏汰も何かを察したのか、特に言葉をかけなかった。
瞳に、奏汰の姿は映っていない。
何もないところを見つめるように、その瞳からは感情が読み取れない。
「ごめんね、それはまだ言えないや」
「A、ぼく」
「そろそろ行かなきゃ。じゃ、また明日！」
「A」
奏汰が名前を呼んでも、Aは一度も振り返ることなく走り去っていった。
彼は追いかけようとすることができず、ただ半身を起こしてその後ろ姿を見つめていた。
彼は何か聞いてはいけないことを聞いてしまった、ということはわかった。
最後に見た彼女は、笑顔だった。
……ふたりが出会って、3日目。
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うーちゃん - 感動しました！！儚い恋ですね☆ (2016年9月14日 20時) (
レス) id: 822060fcb6 (このIDを非表示/違反報告)
菜舞(プロフ) - あ、、泣きました…。すごくいい話で…完結おめでとうございます！！ (2016年8月19日 17時) (レス) id: 0a934d2445 (このIDを非表示/違反報告)
ぺり - 菜舞さん» わ〜〜ありがとうございます（ ; ; ）儚い感じを目指しているので、そう言っていただけると本当に嬉しいです…！ (2016年8月11日 22時) (レス) id: 6abc9b85c5 (このIDを非表示/違反報告)
菜舞(プロフ) - こんなに素敵な小説初めて見ました！！！儚い感じがすごく好きです… (2016年8月11日 21時) (レス) id: 0a934d2445 (このIDを非表示/違反報告)
ぺり - 湊朔さん» ありがとうございます！まだまだ未熟ですが、もっと魅力的な世界観を目指して頑張ります！（ ; ; ） (2016年8月10日 9時) (レス) id: 6abc9b85c5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぺり | 作成日時：2016年8月9日 15時
