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Nineteen ページ21

Aは口が開きっぱなしだった。
検査で連れ出されて以来、一度も外に出たことがない彼女は目を輝かせながら足を踏み出す。
自分の部屋という狭い世界で暮らしてきたAの目にはすべてのものが新しく見えた。
赤血球が二酸化炭素を抱えて走る姿や細胞達がおかしそうに笑っている風景。
グルコースの販売機を見かけると、興奮したように正体を記憶細胞に尋ねた。
楽しそうにはしゃぐAを見るのは初めてだった。
彼女はこんな表情もできるのか。
Aの新たな一面を見ることができて、記憶細胞も楽しかった。
でも記憶細胞にはAが眩しくて仕方ない。こんな輝きを、自分は随分と昔に失ってしまった。
毎日のように文字を追いかけて、いつしか文字に追われているような気分になって。でも肝心な時に思い出すことができず。
向き合うのは世界に害を及ぼす抗原ばかり。
こんなにまっさらで澄みきった誰かを見ることなどないに等しい。
「記憶さん? 」
Aの声にハッとした。
「どうした!? 」
「楽しくないですか?私とのお散歩」
「そんなことないよ」
「でもさっきから浮かない顔してます。それなのに私、こんなに騒いで」
記憶細胞はAには敵わないと思った。
Aは手放しで楽しんでいた訳ではなかった。ずっと記憶細胞の様子を伺っていたのだ。
記憶細胞が最初はとても明るい顔をしていたのに、だんだん苦しそうな表情に変わっていったことをきちんと分かっていたのである。
記憶細胞はAの目線まで屈み、じっと彼女の瞳を見て言った。
「楽しいよ。でも俺にはAが眩しい」
「どういうことですか? 」
「俺にとってはなんてことないことを見つける度に、Aが嬉しそうにするから」
「馬鹿にしてます? 」
じっとりとAは記憶細胞を睨んだ。
「してないよ。ただ俺はそんなAが羨ましいだけなんだ」
「そうですか」
プイッと顔をそらして、数歩先を言ったA。
気分を害してしまったかと記憶細胞が後を追いかけようとすると、Aはくるっと回って彼を見た。
「じゃあ、お揃いですね。私も色んなことを知っている記憶さんが眩しかったから」
……本当に敵わないな。
声にはならなかったが、記憶細胞はそう呟いた。
顔を上げると、だいぶ先までAは歩いていた。
今度こそAを追いかけるために、記憶細胞は駆け出した。

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設定キーワード:はたらく細胞 , 記憶細胞   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:futureblue鏡 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年3月8日 17時

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