Eighteen ページ20
Aはベランダで記憶細胞を待っていた｡
今日は散歩に行く約束の日｡
Aは待ちきれなくて、いつもより早くベランダに出ていた｡
しかし待てども待てども記憶細胞の姿は見えない｡
もしかして急なお仕事でも入ったのだろうか｡
Aはシュンと項垂れて、ベランダの手すりに額を乗せた｡
するとインターホンが鳴る音が聞こえた｡
記憶細胞を待つ間に赤血球が酸素なり栄養分なり届けにきた場合を考えて、窓を開けたままにしていたのだ｡
はいはーい、と玄関まで駆けていき、ドアを開いた｡
「お待たせ」
「え、記憶さん、何でここに」
記憶細胞がベランダではなく玄関にまで回ってやってきていた｡
記憶細胞はいたずらが成功した子供のように笑って言う｡
「この前の仕返しだ」
この前……と考えてAはすぐに思いあたった｡記憶細胞を少しばかりからかったことである｡
Aは悔しくなって地団駄を踏む｡
悔しさのあまり、鼓動までがAの中で大きく響いた｡
「じゃあ、行こうか」
そう言って記憶細胞が差し出した手に、Aは自分の手を重ねた｡
その瞬間、記憶細胞の肩が跳ねたような気がしたが、きっと気のせいだと思うことにした｡
「あ、そうだ｡記憶さん、ちょっと待っててください」
Aはするりと記憶細胞の手を離し、部屋へと戻った｡
少しして、Aはテープと紙を持ってきた｡それらをドアに貼りつけた｡
紙には『ちょっとお散歩してきます』と書かれている｡
「なくても大丈夫じゃないか? 」
「念のためです｡記憶さんとのお散歩を邪魔されちゃ嫌ですし」
記憶細胞はン"ン"と声が漏れそうになって、慌てて口を押さえた｡
可愛いことをするAに悶えかけたのだ｡
これで何故自分の感情に気づけないのか｡それは記憶細胞だからとしか言いようがない｡
しっかりと貼りついたことを確認してAは頷いた｡
「OKです!お待たせしました｡さあ、行きましょう」
記憶細胞が歩き出しても、もうAは手を繋いでくれなかった｡
記憶細胞はそれが少し寂しく感じたのであった｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
