Thirteen ページ14
Aは黙り続けた｡
記憶細胞の気持ちはしっかり届いたはず｡後はAがどうするのか｡それ次第だった｡
記憶細胞はAの意思を静かに待っていた｡
「記憶さん、指切りしてください」
「うん? 」
突然のお願いに記憶細胞は困惑した｡
しかしAの真剣な眼差しを受けて、静かに小指を差し出した｡
ゆーびきりげーんまん｡
血小板が唄っていた様子を記憶細胞は思い出す｡
「……私の話を聞いても嫌いにならないって約束してください」
「ああ、約束するよ」
うーそついたらはーり千本のーます｡
「指きった」
Aと記憶細胞の間に幼い形で約束事が取り決められた｡
「私、ウイルスが怖いんです」
Aはポツリとそうこぼした｡
「そりゃあ誰だって怖いだろう」
「違うんです」
記憶細胞の相槌をきっぱりと斬ったA｡
今までこんなことはなかったため、記憶細胞は目を白黒させた｡
「皆、怖いのは分かってます｡でも違うんです、他の細胞達とは」
ゆっくりと息を吸ってAは言った｡
「皆は知らないから怖いんです｡でも私は知ってる｡だから怖い」
ぐっと唇を噛んでAは何かをこらえているように見えた｡
「……詳しく、教えてくれる? 」
記憶細胞はAの顔を覗き込んで尋ねた｡
Aは何度も口を開いては閉じを繰り返して、迷いを隠せないでいた｡
「Aは俺に分かりやすいって言ったよな」
突然方向転換した話題に、Aは顔を上げた｡
この人は何を言い出したんだ、と｡
「それ、そっくりそのままAに返すよ」
「はあ!?どういう意味です! 」
「ほら、そういう所だよ」
「意味分かんないっ! 」
ぷんすこしているAを見て、記憶細胞は思わず吹き出す｡
そんな記憶細胞に最初こそムカついたものの、Aも自然と一緒に笑ってしまっていた｡
笑いすぎてあふれた涙を人差し指で拭いながら、Aははーっと息をつく｡
「笑ったらさっきまでの重たい空気、どっか行っちゃいましたね」
もういいや｡
そう言って踏ん切りがついたのか、Aは話し始めた｡
「私、小さい頃にウイルスに襲われかけたんです」
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
