Fourteen ページ15
「小さい頃っていうのも、分裂装置にいた時なんですけど｡先輩には、あ、先輩は私をコピーした人です｡先輩にまだ似てなくて、そうだなあ、血小板ちゃんくらいだったかな｡ウイルス感染細胞が分裂装置を乗っ取ろうとして先輩の部屋に押し入ってきたんです」
明るい調子で話すAだが、テーブルの下で自分の手をぎゅうっと握りしめていた｡
記憶細胞は一切口を出さない｡さっきみたいに話の鼻を折らぬよう｡
「分裂装置を無理にでも壊そうとしたんですって｡先輩は私だけでも助けようと壊された分裂装置から私をおぶって部屋から逃げたって」
正直、とAは続ける｡
「当時はよく分からなかった｡いきなり眩しくなったと思ったら、抱き上げられて｡でも本能なんでしょうか、ウイルス感染細胞を見た時」
物凄い恐怖を感じました｡
思い出したのか、Aは両腕をさする｡
「結果として先輩も私も無事だったんです｡リンパ球の方が助けてくれたんだって聞きました｡記憶さんも確かリンパ球ですよね｡もしかしたら助けてもらってたのかな」
へらりとAは力なく笑った｡
「新しい部屋に移って、私は分裂装置に戻されました｡でも先輩みたいにはなれませんでした｡襲われかけたショックなのか途中で分裂装置から出たからなのか分からないけど、突然変異で私は女になりました｣
嘘みたいでしょう｡
でも本当なんです、と｡
「その後が大変でした｡がん細胞かもってたくさん検査を受けて、結果が出る前に消されかけたりして｡でも性別以外異常はなくて｡コピー能力にも異常がないから、私のコピーくん達は先輩そっくりなんです｡部屋に戻った時、先輩は泣いてました｡ごめんね、俺が無用心だったせいでって｣
ぽたぽたと雫が床に落ちるのを、記憶細胞は見ていた｡
「だから私、先輩を苦しめないように笑いました｡私を見て先輩が泣かないように、髪を切って男っぽくもしました｡でも、先輩は笑ってくれなかった｡そのまま私は独り立ちしました｣
「……今、その先輩は」
やっとのことで絞り出せたその声は少し枯れていた｡
「あれ以来会ってないから分かりません｡でも風の噂でウイルスに感染したとか」
記憶細胞は何も言えなかった｡何を言っていいか、何を言うべきか分からなかった｡
「だから私、ウイルスが怖い｡私が生まれる前まで、先輩は明るい方だったと聞きました｡その先輩を狂わせて、最終的に取りつくウイルスがどうしようもなく怖いです｡でも1番恐ろしいものは」
自分自身なんです｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
