肆拾壱。 ページ42
【無一郎Side】
しばらく無言の時間が続いた後、Aはゆっくりと話し出した。
『汽車全体が鬼になったのに、二百人以上の乗客を誰一人死なせなかった。最期の最期まで本当に立派で、強くて……。上弦の参が来なければ、あんなことにはならなかったのに……!』
「……そうなんだ」
『もう無理だよ。辛くて苦しくて、我慢できない。大事な人からどんどん失っていって、何度も何度も胸が張り裂けそうになる』
「……」
大切な人を失って、また前を向けるようになったと思ったらすぐに失って、表情がなくなるほど苦しんで、ここ最近は笑えるようになったのに、それでもまた失った。
そんなことを繰り返していたら心が壊れてしまう。でも、どうすることもできない。――鬼が、人の命を奪う限りは。
『私はすごく悔しい。悲しい。苦しい。……でも、分かるんだ。昔二度家族を失ったときと比べて、悲しみの度合いが低いの。同じくらい大切なのに……。きっと、大事な人を失うことに慣れてきちゃったんだよ』
「……!!」
『絶対に慣れたくないと思ってた。でもね、なんかもう……無理なんだ。感情が少しずつ小さくなってるの。そのうち幸せすら感じられなくなるんじゃないかな。……ねぇ無一郎くん、幸せも苦しみも感じない人生なんて、生きてる意味あると思う?』
「――僕、はっ」
思わず布団から跳ね起きた。
「僕は、Aが生きてないと嫌だ!絶対に死なないでよ!」
『……死なないよ。杏寿郎さんの分まで無駄にはしない。だから、命をかけて戦うしかできることはないけど』
そう話す声は、驚くほど冷たく感じた。Aがどこかに行ってしまうような気がして、僕はすごく怖くなった。
すくっと立ち上がると、Aは不思議そうな声で聞いた。
『無一郎くん……?』
何も言わずに僕はAの布団をめくり、中に潜った。
『え、あの、何してるの?ここ一応、私の布団……ひゃあっ!』
布団の中で抱きつくと、Aは高い声を上げた。付き合ってもいない男女がこういうことをするのはよくないのかもしれないけど、こうせずにはいられなかった。
「――もしAの感情がなくなりそうになっても、僕が絶対に止める。Aが幸せって思えるように頑張る」
『え……?』
「だから、大丈夫。Aは絶対に僕が守る。何があっても幸せにする」
まるで求婚されてるみたい、と言ってAは笑った。その時だけは、世界に二人しかいないような気がした。
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わらび餅 - あおいさん» 本当に何回も、ありがとうございます!すっごく嬉しいです! (2020年3月6日 20時) (レス) id: eec3d5a46f (このIDを非表示/違反報告)
あおい - 題名、変わりましたね!とっても素敵です....!続きがめっちゃ気になります。次の更新も楽しみに待ってます! いつもの長文野郎より。 (2020年3月5日 21時) (レス) id: 4eed4f74a9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅 - 萌葱なごみさん» えええ……マジですか!?全然出てこないんですけど、もしかしてスマホのスペックが低いんしょうか……。何か他の読み方は知りませんか? (2020年3月1日 20時) (レス) id: eec3d5a46f (このIDを非表示/違反報告)
萌葱なごみ - しまと打って探せば出てきます! (2020年3月1日 18時) (レス) id: be00a3fd43 (このIDを非表示/違反報告)
萌葱なごみ - 嶼ですよ! (2020年3月1日 18時) (レス) id: be00a3fd43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:karin | 作成日時:2020年2月9日 20時