一生分の恋を、あなたと【時透無一郎】

参拾壱。 ページ32

【無一郎Side】

「それに、実力だってそんなに変わらないよ。本気を出されたらきっと僕だって勝てない」

本気というのは、鬼に怒った状態のことだ。心から鬼に怒り狂っているとき、Aはものすごく強い。

人間相手だとその力は少ししか出せないけど、それでも充分すぎるほどだ。腕相撲大会では胡蝶さんに負けたけど、力の乗せ方が上手いから鬼の頸も斬れる。

『でも、無一郎くんの方が救える命は多いよ。私が死ぬより無一郎くんが死んだほうが損失は大きいはず』

だから、そういう問題じゃないんだって。僕がAに生きていてほしいんだよ。

Aは時々、生きることに対して無関心な気がする。昔あったことを考えるとそうなるのは分からなくもないけど、Aに死なれるのだけは絶対に嫌だ。

「大丈夫だよ、心配しなくても死なないから。あの隊士のこと信じてるんでしょ」

『うん。炭治郎は、きっといいお兄ちゃんなんだと思う。信じて大丈夫だよ』

「…………」

面白くない。
もしかすると、アイツはAを好きになったのかもしれないし。ただでさえ恋敵は多いのに、これ以上増やさないでほしい。

というか甘露寺さん、さっきから僕たちの会話を聞いていちいち顔を赤くするのやめてください。

「二人って、もしかしてお付き合いしてるの？仲がいいものね！キュンキュンしちゃう」

「……まだ付き合ってはいません」

「“まだ”！？じゃあ、これから交際する予定ってこと！？」

『ち、違うよ！……無一郎くん、変なこと言わないで！』

顔が真っ赤になっている。すごく可愛い。

「未来のことなんて何も分からないんだから、まだ、でいいんだよ。僕とAが付き合ってる未来だってあるかもしれないでしょ？」

『それは……先のことだし、何があるか分からないから絶対とは言い切れないけど』

「Aが俺を好きになる可能性もあるってことだよね、今の言い方だと」

『……ないと思うけど、先のことだから分からない。でも、他の人に比べたら可能性はなくはないかもしれない？』

「なんで最後疑問形なの」

でも、少しだろうと可能性はあるみたいだ。

「じゃあ、がんばるよ」

『うん！で、えっと……何を？』

「……秘密」

「無一郎くん！私、分かったわ！応援してるから頑張ってね！」

甘露寺さんに応援された。

第三者ですらどういう意味なのかわかるのに、本人は全くもって理解していない。Aの鈍感さは鬼殺隊随一だ。

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