passionate gaze 1【Y】 ページ8
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「帰んだ」
その声が私の耳に届いたのは、練習後、マネージャー室で制服に着替え、やっともらえた連絡に胸をなでおろし、足早に体育館の脇を通り過ぎようとしたときだった。
咎めるでもない、それでいて見送るわけでもない、淡々とした、抑揚のない声。
主はすぐに察しがつく。
ひと呼吸置き顔を向ければ、声色よりもっと無愛想な顔をした横尾くんが、体育館の入り口から私を見下ろしていた。
片手には、線の掠れたバスケットボール。
「ふふっ、顔、怖いよ?」
「別に、普段顔」
「普段顔って初めて聞いた」
彼の物言いに思わずくすくすと笑ったはいいけど、そんな私を突き刺す視線はいっさいのブレをみせないから、溢した"くすくす"を自ら素早く回収した。
「また一人で自主練?」
「別に帰ってもやることねーし」
呼び止めたのは自分だと言うのに、言い終わらないうちから私に背を向け、ダムダムッと大きくドリブルをして走り去る。
ぼやけたスリーポイントラインの手前、
薄汚れたバスケットボールが
年の割には頑なそうで
その割には繊細そうな彼の指先から
凛と、放たれた。
耳をすませば聴こえてくる。
鳥肌が立つほど滑らかな風音。
この機械仕掛けのような正確さは、練習後もこうして、たった一人、だだっ広い体育館に毎日残る彼だからこそ成せる技だということを、
顧問の先生も、キャプテンも、部長も、彼のファンの女の子たちもきっと知らない。
「頑張ってね」
この声は彼の耳に届いているだろうか。
バウンドして転がるボールを、ゆっくりと追いかける、無関心な背中を見つめる。
そして、その無関心で固めた大きな大きな関心から、そっと視線を外し、再び私は歩き出した。
届いていないのなら、その方がいいのかもしれない。
だって私は
彼の想いに
応えることができないのだから。
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作者名:ななは | 作成日時:2018年7月28日 1時