a mirage II 3【T】 ページ49
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「映画面白かった？」
「もちろんっ」
「どこが一番笑えた？」
「えっ…と、どこだろ…」
「あ、女の子がカミナリに打たれて丸焦げになっちゃうところ？」
「あっ、そう！そこ！」
そんな場面あったかも分からなかったけど、必死に話を合わせてしまった後ろめたさから、玉森くんを真っ直ぐに見れずに、下ばかり向いてしまう卑怯な私。
「そっかー。もしそうなら俺と花村さんが観た映画は違うやつだね」
その言葉に慌てて頭を上げると、玉森くんは驚くほど優しい笑顔を浮かべていた。
「花村さん俺のこと好きじゃない？」
「……ちがっ、」
「うん。じゃあ、何？」
このままじゃダメだ。
このままじゃ、映画みたいなハッピーエンドなんて待っているわけがない。
「玉森くん、…前、言ってくれたよね？好きだから…、続きを知りたいって」
「うん」
「私は逆なの。……好きだから聞けない。やっぱいーやって言われると、なんか悪いこと…、別れよう…とか、言われちゃうのかなって…」
「…うん、で？」
「あのっね…、玉森くんってすっごくカッコいいの。みんな見てるの。だから…、なんか、そのっ…」
「うん、大丈夫。教えて？もっともっと。花村さんの思ったこと全部」
見上げた先にある玉森くんの朧げな姿は、優しい声で、色を宿していく。
「俺は別に聞き返して欲しいワケじゃないよ。ただ、花村さんが何か言いかけたら、何？って聞き返す。上手く気持ちを話せなくて言葉につまったら、続き教えて？って言う」
玉森くんの親指が、私の頬を伝う涙をひと粒ひと粒丁寧に拾い上げてくれる。
「花村さんが100回言いかけたら、俺は100回聞き返すよ」
そう言って微笑んだ玉森くんは、すくった何粒もの涙を、ひと粒の優しいキスに変えた。
触れられたらこんなに温かくて、感じたらほんの少し震えてるのに、いったい私は何に不安になっていたんだろう。
彼の存在を曖昧にしていたのは、ずっと私自身だったんだってやっと気づいた。
「玉森くんっ……、」
「ん？」
「好き」
「俺も」
「大好き」
「俺も」
「あの、これから玉森くんのことっ……、」
「あっ！！それは待って！」
「っっ……、？」
私が言いかけた言葉を聞き返すどころか、言いかけた言葉を遮るようにして玉森くんが言った。
「これからはAって呼んでもいい？」
【end】
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作者名：ななは | 作成日時：2018年7月28日 1時
