at close range (ページ44)

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secret attic room 2【Y】ページ44

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あといっかい。

あといっかいでも瞬きをしたら、目の前にある瞳からは涙が溢れるだろう。

別に泣いたって構わないけど。

「お前耳ついて

「相変わらずおっかねぇなぁ」

追い討ちをかけようとする俺をやんわりと制するのは、決まっていつも、太輔だ。

「太ちゃ…」

瞬くことを許された小さな瞳から落ちた涙の粒を、太輔の指先がなんの迷いもなくすくう。

間違えのない優しさをそそぐことのできる太輔の登場が、俺の気持ちを更に冷やしていく。

「このバカ今から買い出し行くらしい」

「彼氏に向かってこのバカとか言うなよなぁ」

「だってコイツ…」

言いかけた俺に向かって、太輔が小さく頷き微笑んだ。

その笑みは、「ありがとう」にも、「俺の役目だよ」にも感じて、俺は当たり前に続けるはずだった言葉をのみ込むしかなかった。

「A、また熱出ちゃったんだろ？」

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一年半前、フラフラと廊下を歩いていた須藤Aが太輔にぶつかった。

"っと…、びっくりしたぁー"

"……すみません"

"なんかすっげぇ熱いけど、平気？"

"…大丈……で…"

言いながら倒れた須藤Aを太輔が受け止めて、保健室へと運び、付き添いを兼ねて二人で早退し、

そうして、そのままずっとそばいる。

詳しいことは知らないけど、体が弱く、同学年だけど一歳上で、友だちどころか知り合いすら居なかった須藤Aは、誰の目にもうつらないほど高く浮いていた。

そんな須藤Aにとって、初めて目線を合わせてくれた太輔は、唯一無二の存在なんだと思う。

「まぁた熱かよ」

ぼそり、誰かが言った。

睨みつけるようにしてその音源を探せば、山本と富樫のうんざりした顔をすぐに見つける。

「俺もなんか頭いてーんだよね～。今から作り直すとか無理だわぁ～」

「俺もー。朝から腹の調子悪いし、ぶつかってきたの須藤さんだかんね？」

「先輩はいーよなぁ～。めんどくせーことは全部熱出ちゃったって言えばいーんだもん」

俺だったら怒鳴ってるよ。

俺だったら確実に殴りかかってる。

俺だったらこんな風に

「二人とも大丈夫か？俺が買い出し行って作り直すからお前らも早く帰って休めよ」

偽物の優しさで上手に隠したりできない。

犠牲になる奴は"悪"じゃなきゃおかしいって、もっともらしく正論を振りかざし、守りたい存在を、きっといちばん傷つけるんだ。