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自ら包丁を抜いた女性は、”雪村沙代”さん。
雪村さんのお母様だという。
目の前で沙代さんのカルテを記入しているであろう横峯先生。アルコール依存症意外には、特に大きな疾患も見つからず、頭部の怪我も後遺症を残すことはないだろう。
かつかつと音がして、ナースステーションに誰かが入ってきた。
「よかったね、お母さん」
そのセリフに顔を上げると、出勤前の雪村さんだった。向こうのデスクにあるPCを開いていた。
「刃先が奇跡的に、前頭葉と側頭葉の間に入って脳を傷つけなかったって。強運の持ち主だって、藍沢先生も驚いてた」
下手に口出さないほうがいいよ〜と、声をかけたい気持ちもあるが、あれは横峯先生からしたら悪気があるのではなく、本人へと心配をして声をかけているのでなんとも言えない。
あれが彼女のいいところもであるんだけど...
雪村さんとは、真逆のタイプかな。
ガシャンッ
「帰って!!!」
ICUから鳴り響いた金属音と、叫び声に、全員がそちらへと目を向けた。
「誰か先生読んできて!」
中からナースの声がして、私は急いで中に入る。
「何があったの??」
近くにいたナースに声をかけながら一緒に向かう。
「富澤未知さんのお客様で」
スーツを着た男性がベッドのすぐそばに立っていて、腕から血を流していた。
「ごめん、ガーゼ持ってきて」
「はい!」
ナースへと指示を出し、「失礼します」と声をかけながら怪我をしているであろう手首付近のワイシャツを巻いた。
「最後までそばにいたい」
「最後まで...??」
そう泣きそうになりながら伝えたスーツの男性に、富澤さんは涙ながらに鼻で笑いながら続けた。
「そうねえ。もうもう数週間だもんねぇ...ッ。なんとだって言えるわよねぇッ!!」
後ろから小走りで入ってきた白石先生と、緋山先生を見て「すみません。処置室に」と男性の目を見ながら言えば、静かに「はい」と返事が返ってきたのでそのまま白石先生へとバトンパスした。
緋山先生と冴島さんがすぐに富澤さんの怪我の処置を始めた。
私はベッド側にあるPCへと記入する。
「すみませんでした」
「いえ」
一点を見つめたまま謝る富澤さんへと「面会控えるように、伝えましょうか」と伝えた。
「...本当は、来てくれて、...すごい嬉しかった」
冴島さんが包帯を止める作業に入る。
「じゃぁ...」
そう言った緋山先生の言葉を、富澤さんは静かに顔を横に振った。
「彼、やっぱり結婚しようって言ったの...」
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めい - 楽しく読ませていただいています!ありがとうございます。 (7月20日 7時) (レス) @page10 id: da775a55a6 (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮麗子(プロフ) - 初コメ失礼します。続きが気になります・・・!更新大変だとは思いますが、待ってます。 (2021年7月17日 9時) (レス) id: 3300853b00 (このIDを非表示/違反報告)
Flower(プロフ) - 続きが気になります!大変だと思いますが、更新楽しみにしてます!! (2020年3月26日 22時) (レス) id: cd08cf8264 (このIDを非表示/違反報告)
真衣(プロフ) - 続きが気になります 更新しないんですか?これからも頑張ってください (2019年10月2日 22時) (レス) id: b2ca3dc2e9 (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月21日 2時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mono | 作成日時:2018年10月20日 17時