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「い、や。、せー、ちゃん、んん！」
不思議と涙は出なかった。
女としてではなく、遊女としての意地の方が勝ったんやろう。
こんな輩のために流すなんて、悔しすぎる。
「！…黙れ！まだわからんのか、」
そう言って、口を塞ごうと手を近づけてきた。
もうなにも見たくなくて、まぶたを閉じる。
その時、部屋の外で誰かがドタバタと通る音が聞こえて、ほとんど無意識に、発する。
「助けてせーちゃんんんっ！！」
口を塞がれて話せなくなったのと、パスン！と襖が勢いよく音を立てて開いたのは同時だった。
「だれ
「離れろ！」
目を閉じていたからわからない。
けど、私を助けてくれたようだ。
塞がれていた口が解放され、身体の上から体重もどいて、一気に空気を吸い込んだ私は思わず咳き込んだ。
その時、男のうめき声と畳に伝わる震動で、助けてくれた人がその男を突き飛ばしたのがわかった。
「なにを！？…なぜお前がここに」
「黙れ。」
そう言い、何度も殴る。
そのうち、力尽きたのか抵抗する音がなくなって、私はそこで初めて目を開けた。
ちょうど月が雲に隠れたようで、相手の顔が見えない。
でも、こちらに寄ってきた人は、簡単に私を抱き起こすと、
「えっ。」
その力強い腕で、包み込んだ。
「遅くなって、ごめん。」
程よい低音の声が心地いい。
でも呟くような彼の吐息が肌に直接当たってドキドキする。
「もう、大丈夫やから。」
そう言われた瞬間、今まで我慢していた怖さのようなものが襲いかかってきて。
「…うん。」
彼の着物の胸元を掴んで、しがみつく。
そのうち、部屋の外が騒がしくなって、
「A！」
楼主と、番頭が入ってくる。
私からすっと離れ、乱れた着物の前を合わせようとしてくれる。
それに気づいた私は、楼主たちに背を向けた。
「A！大丈夫かっ！、」
「…はい。」
「そうか…。ところであんたは…？、」
そうだ、助けてくれたこの人は…
と顔を見て、驚きで動けなくなる。
「夜分にお騒がせしました、…吉岡の屋敷に仕えております、福本と申します。
ここからは話すと長くなるのですが」
やって、さっき私を抱きしめたのは、廉のことお願いしますと言った、福本さんやったのやから。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
