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「で、ほんまに柊和は何しに来たん？」
と言うと、あ、そうそうと言うように思い出したらしい柊和が口を開いた。
「A、最近変わったことない？」
「いや、ないけど…」
「ん、そっか…ならええんやけ」
「何事。」
私がそう言うと、苦笑いした柊和。
「どういうこと？ちゃんと教えて。」
「あんまりええ話やないんやけど…」
そう前置きをした柊和が少し声を落として話し出した。
「なんや、『祇園のAっていう女知らへんか？』って嗅ぎ回ってるやつがおるらしい。」
「それって、私のこと…」
「やろな…。俺も詳しくは知らへんのやけどうちの店に来たらしいんや…うちがこの街に出入りしてるから知ってる思たんやろな
お客様あっての商いしとるようなもんがそんなこと教えるわけないのに。」
柊和の店との付き合いがずっとあるのは、そういう信用があるからだ。
「で、さっきや。
ここの前で、番頭さんが表掃除してはったから、『こんちはー！Aの着物届けに来ました！』って挨拶したら、店の前におった男がこっち振り返りよって。」
「まさかここにも…？」
「まだわからんけど、尋常やない気がしたわ。」
「そんな…」
「心当たりは？」
「ないけど、…」
私の歯切れの悪い言い方に何か感じ取ったのか、柊和が覗き込んでくる。
「どうした…？」
「あのね、前はよく来てくれてたお客さんが最近ぱったり来おへんくなって…」
「関係ない、とは言えへんな…」
柊和と目が合うと、目を細めた彼。
「心配すんな。Aが悪いわけやない。
お前はここにおる限り大丈夫やろ？」
そう、頭の上に乗せられた柊和の手。
なんだか小さい子をあやすみたいで、あまり好きではないその行為までも受け入れてしまう。
普段ふらふらしてるくせに、なんでこんなにもしっかりしてるんやろう。
私のことも何も言わなくてもわかるみたいで。
思わずその手に甘えてしまう。頼りにしてしまう。
「ざわにも言うとくわ、あいつもここによう来るから。」
「え、せいちゃ…晴太郎さんにも言うの？」
驚きのあまり、いつもの癖でせーちゃんと呼びかけてしまう。
幸い、柊和は気づいてなかったようだ。
「俺らのこと、信じられへん？」
柊和にそんな顔をさせてしまう自分がいやになる。
笑ってるのが１番似合うから。
「違う。心配…いや迷惑かけたくないの。」
「あほ。迷惑なわけないやろ。」
そう言って歯を見せてニッと笑った柊和は、いつもの何倍も大きく見えた。
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作者名：ゆう
| 作成日時：2017年9月6日 19時
