昼夜【われきり】 (ページ5)

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「おい、大丈夫か？そっちは俺がやっておく、お前はこの人の側に着いてろ」
「は、はい、すみません先輩……」
「あの、リコット、妻は、やっぱり、死んで、」

　パンダ巡査は持っていたハンカチで鼻から口元までを押さえながら、女性の身体を軽く観察する。そもそも現場の状態からして、亡くなっているのは確実だった。未だに大仏後輩の腕の中で震えている男の方を振り向いて、ハッキリと答える。

「……まあ、そうでしょうねえ。お辛いとは思いますが、奥さんを発見するまでどこにいらっしゃったのかと、発見した時の状況を教えて頂けますか？」

　鑑識官が到着するまでの間、２人の巡査は男への事情聴取を行った。
　男は彼女が首を吊ったと思われる時間帯、休日だったこともあって、徒歩でふらふらと街へ出掛けていたという。覆面屋や服屋の小洒落たショーウインドウを覗きつつ、少々時間は早いがバーで一杯飲んだりしていたのだそうだ。レシートは普段から受け取らない習慣らしく、財布の中には今日のレシートもなければ過去のレシートも無かった。

「なるほど……ということは、あなたのアリバイを確実に証明出来るような人はいないということですね」
「は、はい……バーに行ってた時間なら、マスターに聞けば分かると思います……」
「そうですね、ではその時間だけはマスターさんに聞くとして……奥さんがこうなってしまった原因と言うか、動機と言いますか、そういったものに心当たりはありませんか？」

　男は少し考え込むように口元に手を遣り、数十秒後に重い口を開く。

「……その、お気づきだとは思うんですが、妻は妊娠していて、それでその、鬱、じゃないですけど、もしかしたら、僕の気が付かないところで気を病んでいたりしたのかも、しれないです……」
「……なるほど。内臓は圧迫されますし、つわりもありますしね。妊娠中にうつになってしまう方もいらっしゃると聞きますしね」

　男は一言、ええ、と呟く。それとほぼ同時に鑑識課が到着し、それに気付いた大仏巡査が鑑識官を現場へと案内していった。
　男はその後本部にて詳しい事情聴取を受けたが、現場の様子や遺体の状態などから、男の証言通り他殺ではなく縊死だろうという結論に至った。男が訪れたというバーの店主にも確認が取れ、男は１時間の拘束から解放された。

　時刻は深夜０時過ぎ。シブヤにまた、新たな事件の種が撒かれた。