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1夜 ―愛は愛憎の愛― ページ2



 ネオ・シブヤの一角にそびえる、とある高層マンションの一室。オレンジ色の夕日が窓から差し込んで、ある種ロマンチックな時間帯。
 そんな時間にも拘らず、室内の2人の間には何やら剣呑な空気が流れていた。
 部屋にいるのは1組の夫婦。焦げ茶色に染めた髪を持つ、ホスト風の顔立ちをした男と、大きく膨らんだ腹を大事そうに抱えている女の夫婦である。
 男は夕焼けを背にして両手とも軍手を装着しており、左手に麻製のロープを持っていた。女はそんな男を見て、腰を抜かしながら腹を庇いながら必死に後ずさる。じり、じり、と迫る男は、左手に持っていたロープの束から端を取り出し、ビン、と強く張った。女の喉がごくりと鳴る。

「それで、あたしもこの子も殺すのね」

 剣呑で張り詰めた空気の中、真っ先に口を開いたのは女の方だった。彼女は気丈にも男の顔をキッと睨みつけ、若干震えの残る声でそう言った。男はそんな言葉を聞いても、この場に似つかわしくない優しい微笑みを浮かべてこう答える。

「そうだね。愛していたよ」

 それはとても穏やかで、非常に落ち着いた声だった。穏やか過ぎて、彼女の棘の生えたような声とあまりに対称的過ぎて、女はもう一度喉を鳴らした。飲み込むほどの唾液などもうほとんどが渇いてしまっているが。
 それでも彼女は最後まで強くあろうとした。例え身籠っていようが、対抗手段を持っていなかろうが、部屋の端に追い込まれていようが、男と対等であろうとした。愛する我が子を両手で抱えながら。

「そっちが過去形にするなら、こっちも過去形にさせてもらうわ。愛していたわ、あなたとこの子を、あなた達といる世界を」

 怯えつつも強い光を放つ彼女の瞳を見て、男は罵声を吐き棄てて嘲笑う。

「綺麗事言うなよ、雌犬が」

 男は女の大きな腹を跨いで馬乗りになり、その両手を肘で押さえて持っていたロープを素早く巻き付けた。女は腹の圧迫感と気道を締め付けられたことにより、喉の奥からガチョウのような声を出した。
 喉をロープでギリギリと絞め上げられ、顔が真っ赤になる。額には青筋と脂汗が浮かび、強く噛んだ唇にはじわりと血が滲んだ。床に押さえつけられた腕を解放しようと必死でもがくが、女の腕力で70kg弱がどうにかなるわけがない。女はなす術もなく首を絞められていき、数分もしないうちにぐるんと白目を剥いて大きく開いた口から涎をダラダラと垂らしながら動かなくなった。

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作者名:梟煌 | 作者ホームページ:Twitterには生息しています  
作成日時:2020年8月11日 19時

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