検索窓
今日:11 hit、昨日:9 hit、合計:3,682 hit

ページ ページ49

結局、オリヴィアに関する情報は集まらなかった。城には使用人が一人もいなかったのだ。ガリオンの部屋に紅茶を運んできた使用人がいたので、最低でも一人くらいは使用人はいるはずなのだが、城の中は全くもって人の気配が感じられなかった。表現はおかしいが、城そのものが死んでいるような気すらした。

 泊まっていったらどうだというチューベの申し出を丁重に断り、ロレッタはシュヴァルツヴァルト城を出た。グリムの村の出入口で御者が待っているはずだ。早めに帰った方が良いだろう。

 黒い森を歩く。足元が少し不安定で、気を抜けば転んでしまいそうだ。

「……?」

 後ろで物音がした。気のせいだろう。ロレッタはそう思いたかった。振り向きたかったが、ガリオンの忠告が妙にひっかかった。

 振り向かずに進むと、後ろからロレッタを呼ぶ声がした。……オリヴィアの声だ。

「ロレッタ様、待ってください!私を探してらっしゃるんですよね?」

「……」

 返事をしない。ロレッタの顔には汗が浮かんでいた。足音も全く聞こえなかったのに。さっきまで全く人の気配がなかったのに。

 それに……オリヴィアは小柄だ。なのに声は、ロレッタの頭より上の方から聞こえてくる。

 答える代わりにロレッタは歩く速度を速めた。

「待ってくださいよロレッタ様」

 オリヴィアの声はついてくる。ロレッタは走り出した。

「待て」

 後ろから聞こえてきたのは、オリヴィアの声ではなかった。

 ロレッタは走った。ひたすらに走った。後ろからの声は聞こえなくなった。それでも走った。まだついてきていると、直感で分かっていた。

 ……どのくらい走っただろう。森の出入口にたどり着けた安心感で、ロレッタは動けなかった。後ろからの気配も、もうなかった。振り向いてみたかったが、まだ少し怖くて振り向けなかった。しかし振り向いても、もう何も起こらないだろう。

 ふわり、ふわり。上からひらひらと軽やかなものが降ってきた。木の葉だろうか?そう思ってそれを見て、絶句した。

 それはびりびりと引き裂かれた水色の蝶の羽と、柔らかな黒髪だったからだった。

あとがき→←前ページ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 6.1/10 (7 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4人がお気に入り
オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ミクミキ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年5月16日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。