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結局、オリヴィアに関する情報は集まらなかった。城には使用人が一人もいなかったのだ。ガリオンの部屋に紅茶を運んできた使用人がいたので、最低でも一人くらいは使用人はいるはずなのだが、城の中は全くもって人の気配が感じられなかった。表現はおかしいが、城そのものが死んでいるような気すらした。
泊まっていったらどうだというチューベの申し出を丁重に断り、ロレッタはシュヴァルツヴァルト城を出た。グリムの村の出入口で御者が待っているはずだ。早めに帰った方が良いだろう。
黒い森を歩く。足元が少し不安定で、気を抜けば転んでしまいそうだ。
「……?」
後ろで物音がした。気のせいだろう。ロレッタはそう思いたかった。振り向きたかったが、ガリオンの忠告が妙にひっかかった。
振り向かずに進むと、後ろからロレッタを呼ぶ声がした。……オリヴィアの声だ。
「ロレッタ様、待ってください!私を探してらっしゃるんですよね?」
「……」
返事をしない。ロレッタの顔には汗が浮かんでいた。足音も全く聞こえなかったのに。さっきまで全く人の気配がなかったのに。
それに……オリヴィアは小柄だ。なのに声は、ロレッタの頭より上の方から聞こえてくる。
答える代わりにロレッタは歩く速度を速めた。
「待ってくださいよロレッタ様」
オリヴィアの声はついてくる。ロレッタは走り出した。
「待て」
後ろから聞こえてきたのは、オリヴィアの声ではなかった。
ロレッタは走った。ひたすらに走った。後ろからの声は聞こえなくなった。それでも走った。まだついてきていると、直感で分かっていた。
……どのくらい走っただろう。森の出入口にたどり着けた安心感で、ロレッタは動けなかった。後ろからの気配も、もうなかった。振り向いてみたかったが、まだ少し怖くて振り向けなかった。しかし振り向いても、もう何も起こらないだろう。
ふわり、ふわり。上からひらひらと軽やかなものが降ってきた。木の葉だろうか?そう思ってそれを見て、絶句した。
それはびりびりと引き裂かれた水色の蝶の羽と、柔らかな黒髪だったからだった。
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