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「よし、ありがとう」
箒を受け取ったゼロ様はにっこりと微笑みました。少し小さいみたいでしたが、乗用するのに問題はないようです。そのまま私に背を向けて、部屋を出ようとして……扉の取手に手を掛けたところで、言いました。
「じゃあオリヴィア、これが最後のお願いなんだけど聞いてくれるわよね？」
「はい、なんなりと」
「今すぐここから逃げなさい」
振り向きもせず、ゼロ様は言います。声には一切の抑揚がありません。顔が見えないからその表情は見えません。何を考えているのか、分からない。
「そんな事は……」
「できない？……ああ、そういえばあなたの使い魔が帰ってきてない、か」
ゴドディン家の従者としてよろしくない事なのですが、私は困惑して思わずそう返事をしてしまいました。ゼロ様は一瞬怒ったような、焦ったような声を出しましたが……ミザリーの事が心配だからだろう、と結論付けたみたいです。
確かにミザリーの事は心配ですが、それ以上にゼロ様が何をしようとしているのか気になります。
「じゃあ……そうね。今晩はここにいて、使い魔を待っていると良いわ。私もすぐに戻るつもりだし……でももし、私が朝までに帰って来なかったら……すぐにここを逃げなさい」
「ゼロ様は、何をしに？」
「少し用事があるだけ。さっきも言ったけど、すぐに戻るから心配しないで」
ああ、それから。
ゼロ様はそう言いながら、そこでようやく振り向きました。しかしその顔からは感情が伺えません。まったくの、無表情。
「朝になるまで家を出ないで。それと、こっちが大切なんだけど……逃げる時は絶対に振り向かないで」
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