【呪術廻戦】最凶呪術師は最凶ルートを回避したい

31話 ページ33

【夏油side】




「呪術も使えねぇ俺みたいな猿に負けたってこと、長生きしたきゃ忘れんな」


消えない。

あの男が口にした単語も、目の前で少女の頭が撃ち抜かれる音も、血飛沫も、彼女の最後の笑顔も。

非術師が、少女の遺体を見て笑顔で拍手を贈る姿も。
何もかも。


弱きを助け、強きをくじく。弱者生存こそ、この世界のあるべき姿。
非術師は弱い。だからこそ、強い私達が彼らを守らなければいけない。


＿＿＿＿＿＿どうして？


私達が命を懸けてまで、それらを守る理由はなんだ？
1人の少女の死を、嘲笑う奴らを守る理由はどこにある？

考えるな。ブレるんじゃない。
悟に「意味が無い」と言ったのは私なんだ。その私が、意味の無いことをやろうとするな。


じゃあ、私達が非術師を守る意味は、どこにあったんだ？


考えれば考えるほど、自分の本音が何か分からなくなった。だから、今Aの問いに「分からない」だなんて陳腐な答えしか返せなかったのだ。

わからない、と答えたそれが何よりの答えだと、口にしてから気づく。



「いや、ちがう、そうじゃな、｣


「言い訳すんな。それが答えだろ｣


「っ、」


剣呑な眼差しに、押し黙ることしかできなかった。
非術師を守るために呪術師がいる。恐らくそれは、呪術全員に共通していることであり、たとえ意識してなくとも非術師を守る行為は当たり前なのだ。

それは目の前にいる彼女も例外ではない。

そんな彼女に、倫理観のへったくれもない自身の思考を読み取られてしまった。
まずい、と思った。これでは、本当の意味で嫌われてしまう。もう二度と、自分にあの笑顔を向けてくれることもなくなる。

隠さなければ、と否定の言葉を並べようとする私に、「憎んだってお前を責めたりしねぇよ」と呆れたような言葉がかけられ、思わず信じられないものを見るような目付きになったのが自分でもわかった。

なんで、そんなこと。どう考えても、私が間違っているだろうに。


「…初めて会った時も言っただろ。今でも私は、お前の"非術師を守るために呪術師がいる"だなんて考え、クソ喰らえだと思ってる」


そういえば、そんなこともあったな。
初対面での衝撃は強かったが、それ以上に初任務後のやり取りが嬉しくて、そんな昔のことなんてすっかり記憶から抜け落ちていた。

でも確かに、そうだった。
なら貴方は、何のために呪術師をやっているんだと憤った覚えがある。


「私がなんで呪術師になったか、知りたいか」


だから、私はAの言葉に素直に頷いた。



「お前を、守るためだよ」

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