30話 ページ32
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任務地が北海道だと聞いた時から、嫌な予感がしていた。
「はぁ、っ、はぁ」
できる限りの全速力で高専までの山道を駆け上がる。
嫌な予感というのは、よく当たるものなのだ。
「硝子、!」
「…A先輩」
私がなんでこんなに急いで居たのか察したであろう彼女は、「五条も夏油も、もう部屋に居ると思うよ」と2人の居場所を教えてくれた。
嫌な予感がしていたのだ。
五条、夏油、硝子の3人が2年生に上がって、何が起きたか。
それがあるから私はずっと長期任務を断っていたのに、よりによって特級受胎が確認されてしまった。現在、特級術師は九十九と私の2名。九十九はフラフラと高専任務を断り続けているならず者なので、消去法的に私が引き受けるしかなかった、ということである。
そして蓋を開けてみたら発生場所は北海道。
真逆、だったのだ。
沖縄と。
「……夏油、居るか」
ノックをした扉の向こう。返事はない。
「入るぞ」
扉の鍵は空いていた。
中に入れば、電気はついておらず、真っ暗な状態。
それでも、段々とその暗さに慣れた視界は、ベッドの上に腰掛け項垂れる人影を捉えた。
「夏油」
「………帰ったんだね、お疲れ」
どう見ても疲れてんのはお前だろ、とか、こんな時まで他人を労ってんじゃねぇよ、とか、色々言いたいことはあるけれど、どれもこの場には似合わない言葉たちだったから、何も言わず隣に腰掛けた。
五条悟と夏油傑が、星漿体・天内理子の護衛任務に失敗した。
天内理子、そして刺客の伏黒甚爾は死亡。五条悟は反転術式を習得し、現代最強の座は私から五条に引き継がれることになる。
この出来事は、後に夏油傑が呪詛師堕ちする最大の要因だった。
私は、それを知っていた。知っていたのに。
「…お土産、買えたかい?」
「………あぁ」
「楽しみだな。きっと悟も喜ぶ」
俯いたまま喋る夏油の声は、いつものよりもずっと固く冷たい、平坦なものだ。
防げた、はずなのに。
未来を知っている私が居たのに、どうして。
「夏油」
反応はない。
起きたことは覆らない。後悔したってもう遅い。どうにもならない。
これは今、私が私に言い聞かせてる言葉だ。
「非術師が、憎いか」
「………………」
答えない。動かない。
夏油、ともう一度、なんの感情も込めずに呼びかければ。
「…………………………………わから、ない」
長い沈黙の後に、小さな小さな歪みが落とされた。
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みたらし(元三日月) - 面白かったです!笑える所、ヒヤッとする所…最後にはやっぱり闇落ちしてしまうのかなんて思いましたが、夏油と夢主ちゃんの最後の会話で感動しました…でもやっぱり「最凶」なんだなーと…w夏油推しにはたまらない作品でした!他の作品、これからも応援してます! (2022年3月17日 15時) (レス) @page47 id: 122f030fb9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - さわさん» さわさんコメントありがとうございます!助けられないかもしれない、と思わせてからのどんでん返しをしたかったので、それが伝わってとっても嬉しいです。応援もありがとうございます、頑張ります! (2021年9月6日 8時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
さわ(プロフ) - 今更ながらコメント失礼します!夢主が原作は変えられないと気付いた所は本当に辛くて顔が歪んだのですが最後まで読み本当に嬉しくなりました。これからも頑張ってください! (2021年8月25日 19時) (レス) id: 2994709d1c (このIDを非表示/違反報告)
ミナこ餅 - 完結おめでとうございます。この作品は今まで見た中で1番面白いです。ちゃんと説明もついてますしなにより矛盾してる点などが無いので!これから他作品も見させて頂きたいと思っておりますが、頑張ってくださいね! (2021年5月9日 7時) (レス) id: 5b0fda8cd6 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - なな。さん» ななさん、最後まで読んでくださってありがとうございます〜!!戦闘シーンは大分キツくて何度も心が折れかけたのでそう言っていただけるととっても嬉しいです泣 これからも頑張ります、応援ありがとうございます!! (2021年3月6日 20時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2021年2月6日 21時