検索窓
今日:3 hit、昨日:3 hit、合計:25,366 hit

来世はもっといい人になろう ページ29

一人、残ったバイト先の施錠をして外に出ると、一月の冷たい風が頬を優しく撫でて行った。

すっかり暗闇に包まれたその中を、長いこと時間を共にしてきたギターを背負って歩く。


いつも通っている大学前を通り過ぎた時、何気なく目に入ったベンチ。


いつもここで、歌を練習していたな。

まあ、今もそれは続けているのだけれど。


なぜだか歌いたくなって、そのベンチに歩み寄ってそっと座る。そして組んだ足の上にギターを乗せて弦に指をかける。


「So open your eyes and see

The way our horizons meet

And all of the lights will lead

Into the night with me

And I know there scars will bleed

But both of our hearts believe

All of these stars will guide us home」


小さく声を出して歌う。


こうやって歌っていたら、Aさんが戻ってきそうな気がして。


「素敵な歌詞ですね」「素敵な歌声ですね」そう言って、また涙を流してくれるような気がして。


こうやって歌って、もう会えない姿を俺は必死に探しているんだ。



あの日。初めてAさんと出会った日。


俺の歌声を褒めてくれたことがすごく嬉しかった。

幼い頃から音楽に触れてきて、いつしか歌手になることが夢になっていて、親の反対を押し切ってこの国内有数の音楽大学に入学した。

でも、自分ではいいと思っていた声の出し方とか、音の奏で方とか、そういうものをなかなか受け入れてもらえなくてすごく辛かった。

でもやめようなんて思わなかった。そんな選択肢はなかった。

歌うことがすごく好きだから。


だから、どんなに歌い方や奏で方を注意されようとも、自分らしく歌ってる時が一番気持ち良くてあの人目につかないベンチで歌っていた。


そしたら、Aさんが現れたんだ。


はじめは、しまった、って思った。だって、褒められたことのない自分の歌声を聴かれてしまったものだから無意識にそう思ったんだ。きっと気を悪くしただろうって。多分、受け入れてもらえない日々が続いたせいで人に自分の歌声を聴かせることがトラウマになっていたんだと思う。

でもAさんは、涙を流して素敵な歌声ですねって言ってくれた。その時、本当に、見えていたものがすべて変わったような気がした。


あの後からなぜか今まで怒られ続けた大学の先生に褒められたんだ。

自分に自信がついたから歌声が変わったのか、それともAさんの魔法なのか。

もう誰も傷つけないように→←悲しむのは自分だけだから



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.4/10 (55 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
170人がお気に入り
設定タグ:WANNAONE , gumi , ペジニョン
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

gumi - 真実さん» そういうことを言って頂けて本当に嬉しいです。最近占ツクには全然来れていなくて、久しぶりにここを見に来たのですが嬉しいコメントが来ていてとても心が暖かくなりました。他のも読んでくださったのですか!?ありがとうございます! (2018年11月11日 21時) (レス) id: 574c7b7109 (このIDを非表示/違反報告)
真実(プロフ) - ただただ感動しました。こんなに人を泣かされる作品を作れる方は本当にすごいです。他の作品も少し読ませていただいたのですが、全部良くて、また読み返したいなと思います。 (2018年10月16日 22時) (レス) id: 77640d9d62 (このIDを非表示/違反報告)
gumi - パジさん» 返信遅くなって申し訳ありません!わー!ありがとうございます!文を書くのは好きなのですが得意な訳では無いので、伝えたいことがきちんと伝わるか心配だったのですが…(><) そんなにたくさんのことを感じていただけたなんて私は幸せものです!ありがとうございます^^ (2018年7月2日 3時) (レス) id: 574c7b7109 (このIDを非表示/違反報告)
パジ - はじめまして!全部読みました!結構速い段階から泣きっぱなしでした…なのに読み終わった後は何だか笑顔になれて、私もいつか素敵な人に合えるのかなとか、もっと家族や友達を大切にしようと思えるような、素敵なお話だと思いました。 (2018年6月26日 23時) (レス) id: 85af0eaaac (このIDを非表示/違反報告)
gumi - KooKさん» わー!すごい嬉しいです!!全部読んでくださったのですか!?ありがとうございます!! (2018年4月28日 23時) (レス) id: 574c7b7109 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:gumi | 作成日時:2018年2月9日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。