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十行目 ページ10

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名前を掴まれたからもう動けないくらいだ。その前からずっと虜だったけど、完全に捕まってしまった。もうどこにもいけない。

彼が、私のことを名前で呼んでくれてるのに、私ばっかり他人行儀じゃおかしい…いやおかしいんだろうか…まず牛島くんが誰かを名前で呼んでるところを見たことないのに…、ヴッ考えると左心房が潰れる。

若利くん、若利くん、若利くん。心の中で、何度も名前を呼んでみて、確認する。大丈夫、間違ってはいない。だから緊張する必要はない。そう、私は落ち着いて口を開こうとした。顔を覆っていた両手も取り払おうとした。が、その前に牛島くんの大きな手が私の手に被さる。そのまま握られたかと思うと外されそうになったので私はこれでもかってくらいに腕の筋肉に緊急要請を出した。

「わーっ!!!まって!!!」
「何故だ。だめか?顔が見たいんだが」
「うんだめ」
「興味がある」
「心の準備があるの」
「大丈夫だ」
「何も大丈夫じゃないの!」
「いやだ」
「やじゃない」

無理やりひっぺがすことなんてしないから彼は優しいと思う。その気になれば私なんてちょちょいのちょいなくせに。待っていてくれるところが好きだ。あったかい手の温度がこのままずっと伝わっていればいいと思う。

手を外してみると子犬みたいな瞳の彼がいた。目の中がうるうるしててそのまま零れ落ちそうなくらいだった。目が離せられなくなる。彼を構成するすべてが好きだ。


「若利くん」

牛島くんは花が咲くように笑うわけじゃないし、写真を撮った時も笑顔は結構ぎこちないし、及川くんみたいな完璧な笑顔を作れるわけじゃない。だから日常の中で何か事象が重なって、時々引き出されるふわりとした笑顔が、すごく綺麗だ。目を細めて、眼差しが優しくて、少しだけ歯を見せる。嬉しいんだってわかる。今の笑顔はそういう笑顔だ。すきだなあ、何よりもすきだ。大好きだ。

「なんか、言ったらスッキリした」
「そうか、…そうか」
「これからも呼んで…よろしいのでしょうか?」
「変だぞ。ああ、頼む」
「うん。ふふ」
「楽しいのか?」
「うん」
「俺と話してて楽しいか?」
「うん楽しい」
「そうか」
「うん。すごいすき」


あ、牛島くん…じゃなくて若利くん…ヘヘッ…なんかすごいびっくりしてる。その後、自分がなんて言ったのかを思い出すのに十秒かかり私の脳内で左心房は完全に潰れた。

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ゆに(プロフ) - あゆむさんの物語の書き方、構成、全部好きです!これからも更新頑張ってください。ずーっと応援しています!! (2019年1月5日 13時) (レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
ゆに(プロフ) - 覚編も合わせ全編読ませていただいています! (2019年1月5日 13時) (レス) id: 2609f34306 (このIDを非表示/違反報告)
梅星饅頭(プロフ) - ご、ご本が出るんですか!??これは買わないといけない……ア"ッ分かります需要と供給がまっったく一致していないですよね…つらい! 今年も一ページ目から一文字一文字若利くんの尊さを感じて新年迎えさせていただきます。お体に気を付けて あゆむさまもよいお年を! (2018年12月31日 23時) (レス) id: baf07f2d20 (このIDを非表示/違反報告)
くー(プロフ) - 本だァ“ァ“ァ“ァ”ァ“ァ”!!!めっちゃ楽しみにしてます!!!! (2018年12月23日 15時) (レス) id: 4b69e817ff (このIDを非表示/違反報告)
ユウ(プロフ) - 本めちゃくちゃ欲しいです!!書籍化になるのを楽しみにしています。 (2018年12月23日 15時) (レス) id: 0e45367a12 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あゆむ | 作成日時:2017年12月28日 20時

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