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鼻腔を擽り、食欲を誘う美味しそうな匂いに、自然と視界が開け、ぼやけた世界が見えた。
まだ、かくん、かくんと船を漕いでいて、ハンモックにゆすられている気分。
「……おーい、Aー! おきろ〜」
『……ん、めし...』
目の前に、オムライスでも出されたような気がして、大きく口を開けてかぶりつく。
「…うわ、待って。俺の手は食べ物じゃないからなっ」
頭上から聞き覚えのある焦りを含んだ声が聞こえてきて、はて…何事だ?と首を傾げる。...んー、随分現実的な夢だなぁ。
「まだ寝ぼけてんのかよ。ほら、お前の大好きな幼馴染だぞ〜。今日も仕事だろー」
『おれ、の大好きなおさななは、しごとのはず...』
「……なんで俺のスケジュール知ってんだよ。...今日はレコーディングだけだから、もうちょっと遅い出勤だけどさ」
『……ふぅーん。美味しそうなにおい、食わせて』
「……お前は起きてるの? それとも寝ぼけてるの? どっちなの」
『……』
「寝ぼけてんのか、よし……じゃあ」
急にきた眩暈に、何も入っていない胃が反応した。くび、もげそ……。前後に大きく揺すぶられて、ガンガンおでこを机にぶつけてる。痛い、痛い……とおでこを擦りながら、仕方なく目を開く。
『……うぇえっ、くるし...なにして...』
「―――はぁ、やっと起きた。ほら、ご飯作ったから食べるぞ」
『おはよ、としきのご飯?』
「そ。冷蔵庫見たら空っぽだったから、食材持ってきておいてよかったよ」
『おーさんきゅ』
噛み合わない会話でも、どこかほっとしたような幼馴染の顔を見て、俺もなぜか安堵する。
他人のいない広い家で一人で食う飯は、超不味いけど、やっぱり誰かの心のこもってる飯はうまいよな、なんて柄にもなくくさいことを思う。
『としきの作る飯うま〜』
「はいはい、ありがと。 俺もお前が美味そうに食べてくれて嬉しいよ」
『んふふ、うまうま〜』
「……って聞いてないし」
バッチリ聞こえていたとしきのデレも、とても貴重なもので、嗚呼幸せだなとご飯と共にかみしめる。...いつかのとしきにした質問を思い出して、俺自身の答えを心の中で復唱しておきながら、幼馴染の幸せそうな顔を目に焼き付ける。
(……こんな生活がずっと続けばいいのに。)
幸せな空間の中で、不自然にざわついた心に気がつかないふりをして、俺は今この時を楽しんだ。
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若宮(スイス/シャラルー☆)(プロフ) - いろはさん» わわわわ…! コメントありがとうございます。綺麗な文章だなんて言われ慣れて無く、気が動転してしまいました💧 なけなしの語彙力と文章構成能力で執筆しているので、むれがありますが、書けるときにゆっくりと更新していきますので、続編もよろしくお願いします。 (2022年3月25日 23時) (レス) id: 85bfe49477 (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 文字って主さんが書いているんですか??急でごめんなさい。そうだとしたら綺麗すぎません?!尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年3月25日 19時) (レス) @page2 id: 16f74b0176 (このIDを非表示/違反報告)
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