検索窓
今日:2 hit、昨日:15 hit、合計:47,800 hit

ページ8

.







 鼻腔を擽り、食欲を誘う美味しそうな匂いに、自然と視界が開け、ぼやけた世界が見えた。
 まだ、かくん、かくんと船を漕いでいて、ハンモックにゆすられている気分。



「……おーい、Aー! おきろ〜」

『……ん、めし...』


 目の前に、オムライスでも出されたような気がして、大きく口を開けてかぶりつく。


「…うわ、待って。俺の手は食べ物じゃないからなっ」


 頭上から聞き覚えのある焦りを含んだ声が聞こえてきて、はて…何事だ?と首を傾げる。...んー、随分現実的な夢だなぁ。




「まだ寝ぼけてんのかよ。ほら、お前の大好きな幼馴染だぞ〜。今日も仕事だろー」

『おれ、の大好きなおさななは、しごとのはず...』

「……なんで俺のスケジュール知ってんだよ。...今日はレコーディングだけだから、もうちょっと遅い出勤だけどさ」

『……ふぅーん。美味しそうなにおい、食わせて』

「……お前は起きてるの? それとも寝ぼけてるの? どっちなの」

『……』

「寝ぼけてんのか、よし……じゃあ」



 急にきた眩暈に、何も入っていない胃が反応した。くび、もげそ……。前後に大きく揺すぶられて、ガンガンおでこを机にぶつけてる。痛い、痛い……とおでこを擦りながら、仕方なく目を開く。



『……うぇえっ、くるし...なにして...』

「―――はぁ、やっと起きた。ほら、ご飯作ったから食べるぞ」

『おはよ、としきのご飯?』

「そ。冷蔵庫見たら空っぽだったから、食材持ってきておいてよかったよ」

『おーさんきゅ』


 噛み合わない会話でも、どこかほっとしたような幼馴染の顔を見て、俺もなぜか安堵する。

 他人のいない広い家で一人で食う飯は、超不味いけど、やっぱり誰かの心のこもってる飯はうまいよな、なんて柄にもなくくさいことを思う。



『としきの作る飯うま〜』

「はいはい、ありがと。 俺もお前が美味そうに食べてくれて嬉しいよ」

『んふふ、うまうま〜』

「……って聞いてないし」


 バッチリ聞こえていたとしきのデレも、とても貴重なもので、嗚呼幸せだなとご飯と共にかみしめる。...いつかのとしきにした質問を思い出して、俺自身の答えを心の中で復唱しておきながら、幼馴染の幸せそうな顔を目に焼き付ける。



(……こんな生活がずっと続けばいいのに。)

 幸せな空間の中で、不自然にざわついた心に気がつかないふりをして、俺は今この時を楽しんだ。








.

★欲しいなら…→←★



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (47 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
121人がお気に入り
設定タグ:男性声優 , 増田俊樹
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

若宮(スイス/シャラルー☆)(プロフ) - いろはさん» わわわわ…! コメントありがとうございます。綺麗な文章だなんて言われ慣れて無く、気が動転してしまいました💧 なけなしの語彙力と文章構成能力で執筆しているので、むれがありますが、書けるときにゆっくりと更新していきますので、続編もよろしくお願いします。 (2022年3月25日 23時) (レス) id: 85bfe49477 (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 文字って主さんが書いているんですか??急でごめんなさい。そうだとしたら綺麗すぎません?!尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年3月25日 19時) (レス) @page2 id: 16f74b0176 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:シャラルー☆ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年7月21日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。