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いつも以上にお節介な先輩が去ってから、輪の中でいまだにもみくちゃにされているとしきと目が合った。……が、特に何かがあるわけでもなく、目をそらした。お互いに。
そんな俺らを先輩が気にするように見ていることも何もかもわかってはいたけれど、どうしてもアイツにだけはいつも通りができそうになかった。
病室でのとしきと親友の会話を聞いてなお、自分を責めずにいられる人間はそうそういないと思う。ただ俺が過剰すぎるだけかもしれないけど、、、
としきを取り囲んでいた輪も、監督のひとこえで、散っていく。収録開始の合図だった。先輩の隣に腰を下ろしたとしきと再び目が合いそうになって逸らす。また目が合いそうになって逸らす、この動作の繰り返しだった。……もちろん、キャラクターに声を吹き込む瞬間瞬間は大切にしたいから、集中はしていたけど、それ以外は本当に全部アイツのことでいっぱいだった。……どこかで自分を達観している自分がいて、そいつがうるさく集中しろと叫ぶ。無駄な動きが多くてたまったもんじゃない、と叱られる。……そんな感覚だった。
そうこうしている間にいつの間にか収録は終わっていた。……本当にらしくない真似をしている自覚だけはただただあった。いつも通りいつも通りと言い聞かせるたびにから回っていく自分だけがみえた。……それはひどく滑稽に思えるほどだった。
だからだろうか、行く先々で前の事務所の先輩方にものすごい勢いで心配されまくった。そんなに笑えるほど繕いが下手だっていうのかと拗ねてしまいたくなるほどだった。
「……っあ、天霧さん」
『えっと、西山くんだよね』
「はいっ! 西山 宏太朗です!」
『はははっ、元気だね。収録終わり?』
「そうですね。これから昼食をとって次に移動です」
『そうなんだ。残りの仕事も頑張って』
「はいっありがとうございます。……あの、僕の気のせいかもしれませんが、最近疲れてるように見えて…あのこれ、もしよかったら……」
『ありがとう。これ飲んで頑張るよ。……っと、
ホラ早くいかないと、ここのスタジオの食堂も、ここらへんのお店も混み始めちゃうから、行った行った! 心配してくれてありがとね、西山くんも体調には気を付けて』
彼の背を軽く押して、距離をとる。おどおどと戸惑う彼に、ひらひらと手を振って、にへらと笑顔を向けた。じゃあね、と声をかけて歩き出せば、彼は慌てたように礼をした。
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若宮(スイス/シャラルー☆)(プロフ) - いろはさん» わわわわ…! コメントありがとうございます。綺麗な文章だなんて言われ慣れて無く、気が動転してしまいました💧 なけなしの語彙力と文章構成能力で執筆しているので、むれがありますが、書けるときにゆっくりと更新していきますので、続編もよろしくお願いします。 (2022年3月25日 23時) (レス) id: 85bfe49477 (このIDを非表示/違反報告)
いろは(プロフ) - 文字って主さんが書いているんですか??急でごめんなさい。そうだとしたら綺麗すぎません?!尊敬します…これからも頑張ってください! (2022年3月25日 19時) (レス) @page2 id: 16f74b0176 (このIDを非表示/違反報告)
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