赤信号の手招き・3(妖怪パロ) ページ29
トントンは堪えていた溜息を吐き出した。
「てか……どうするん、アレ」
「……さあ」
Aは淡々とした語調で、どうでもよさそうに呟いた。
「まあ……飽きたらどこにでも行くだろ」
「行かへんよ」
トントンとAは顔を見合わせた。俺じゃない。ぼくでもないさ。じゃあ誰だ。同時に振り向いた二人。
ダイニングチェアの背もたれに寄りかかった男は、トントンとAを見つめていた。正確には、Aを真っ直ぐに見つめていた。
「あんた、美味かったなあ」
「それはどうも」
「また食いたいなあ」
「好きにすればいいさ」
「……なあ、あんた」
「なんだ」
「名前、なんて言うん?」
「言うと思うか?」
ここで初めて、男が残念そうにしゅんとする。耳と尻尾があったら垂れていたことだろう。しかしトントンはその様子を見て背筋に寒気が走っていた。
こいつさらっと真名盗ろうとしやがった。
もちろんAは霊感チート、その手のタブーに関しては幼い頃から本能で知っていたらしく、淡々とした声は一瞬で男の問いを叩き潰した。
「はあ、残念やわ」
仕方ないなあ、と呟いた男はぼんやりと指を伸ばし、すっすっすと空中に何かを描く――おい今何を描いた。何を描いた。トントンが問い詰めるよりも早く空中に書かれた印は光り輝いた。
「俺はゾム。
男はにっこりと笑う。彼が名乗りを上げた途端、空中で光り輝く印は弾けるようにして消えた。
たらり、とトントンは冷や汗が流れ落ちるのを感じる。Aはいつも通りの真顔のまま、男を見つめていた。
「……お前、何した?」
「うーん、まあお前に答える義理はないけど……」
さっと空中に視線を彷徨わせた男は、後ろで一つに結んで三つ編みにした、自分の長い髪を弄り回す。
「さっき取り込んだおひいさんの力で、俺とおひいさんの間に仮の主従契約を結んだ?」
「……おひいさん、ダレ」
「姫さんみたいにきれーなヒトやろ、やからおひいさん」
姫さんみたいにきれーなヒト、と言われる存在は、この場ではAくらいのものだ。というかトントンはこいつに力なんぞを取り込まれた覚えはない。
ぱち、ぱち、と瞬きをして、そしてAは小首を傾げた。
「……ふむ」
数秒考える仕草。
「よろしく、ゾム」
「よろしくなあ、おひいさん!」
「いやいやいや待て待て待て」
常識人がこの場に一人しかいなくてトントンは胃が痛い。
(続く、かも?)
他人様の作品スピンオフ番外13→←赤信号の手招き・2(妖怪パロ)
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弥兎。(プロフ) - 文の構成だったり、心情表現だったり、全てが好みで読みやすいです。『はい上官』が特に気に入ってます。これからも活動頑張って下さい、影ながら応援させていただきます! (2019年10月1日 17時) (レス) id: 029d2a2f18 (このIDを非表示/違反報告)
スギ花粉(プロフ) - 初めまして、こんにちは。 「配信中に〜」のスピンオフ番外目当てで読み始めたのですが、それ以外の作品もとても素敵で気付いたら全部に目を通していました。「そんな夢を見ました」が特に好きです。 素敵な作品をありがとうございます、これからも応援しています。 (2019年8月25日 19時) (レス) id: c38b9cd639 (このIDを非表示/違反報告)
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