【A3!】ワンシーン・ワンカット【皇天馬】

第8話 ページ8

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恋愛モノにおけるヒーロー役なんてもう完璧に演じられる。
一途な役も、強引な役も、それこそ幼馴染役も。
どう演じれば、どんなヒーローになるのか想像出来た。
でも。




「俺の演じるのは新堂隼人だ。けどそれは、17歳の新堂隼人。アイツの、17歳の椎名涼が知らない新堂隼人。
それを、Aは受け入れられないかもしれない。
…いや、俺自身想像がつかない。

こんなの、初めてだ」





どう演じても、アイツの目に“隼人”として映らない気がしてしまう。
どんな台詞も仕草も。
涼に、――――Aに、拒まれるのは、怖い。

現時点で、俺達を繋ぐ繋がりは
相棒であった隼人と涼なわけで。




「それでいいんじゃないの」

「いいって…」

「だから、それって当たり前なんじゃないの。

何も知らない子供だった2人が大きくなって、今まで通りでいられないのなんて当たり前でしょ。
隼人はもう男だし、涼だってもう男の子にはなれないんだよ。
その関係を壊してでも、お互いを想い合えるかどうかがそもそもそういうドラマの醍醐味でしょ」




…幸の言うことはもっともだ。
それがドラマの大筋だし、描かれるのもそういう面だ。
何も間違ってはいない。

だけど、そうじゃない。
それだけならきっと、演じられる。
それだけなら、こんなに不安に思ったりなんて絶対しない。

初めて舞台に立った時とも、夏組の旗揚げ公演の時とも違う。
まだ知らない、感覚。






「頭で分かってるのと、心がついてくるのは違うと思うよ」






そう言ったのは、紬さん。
優しい声は、ゆっくりと心の奥に流れ込んでくる。
優しい目が、俺の何かを見ている……気がする。





「多分なんだけど……天馬君は、隼人に自分が重なるから嫌なんじゃない？
役として新堂隼人を演じなければいけない。でも、演じようとするとそれは皇天馬になってしまう。

本当の意味で、初めて役に共感してるから戸惑ってる……そんな感じがする」





――――ストン、と胸に落ちた。

……そうだ。俺はいつも、役と自分は別物だと思ってた。し、実際そうだった。

だけど今回は？――同じだ。
隼人と涼が変化に戸惑い、距離感を掴めずにいるように。
俺もまた、Aとの距離を掴めずにいる。
だからこそ、分からずにいるのだ。






「経験が無いとそうなるよねぇ」

「あず姉が言うと意味深に聞こえるんだけど…」







だからこんなに、
胸が苦しくなるんだ。……きっと。

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